「では田中さん。好きなところから、お話ください」
「…母さんが認知症になった」
何から話すべきか迷ったが、簡潔にまとめられる話術はない。
それは母さんの得意技だ。
俺が思っていることを、一言でするりと言い当てる。
ただ居心地が良かった。
ずっと、ずっと。
「お母様、がですか?」
「いや、母さんは俺の家内だ」
小娘の左手はスピンドルを回して、右手で組台の重りへと巻きつけていく。
慣れた、迷いのない手つき。
その姿が、なぜか台所に立っている母さんと似ている気がした。
「息子が生まれてからずっと、母さんって呼んでいるんだ」



