夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

「…ああ」


 無駄だと分かれば、すぐに帰ればいい。


 そう自分に言い聞かせて、小娘の後を案内されるがままに追う。

 しばらくすると、本殿からは外れた、小さな部屋に通された。


 
 部屋の対角線に、俺と小娘がそれぞれ腰を下ろす。


 何やら準備を始めた小娘が木箱を開く。

 そうして、スピンドル(糸縒り機)と組台を取り出した。

 
 懐かしい。


 そういえば、母さんが若い頃、あれに似た組台で俺に組紐を組んでくれたことがあった。

 俺はそれが嬉しくて嬉しくて、どこに行くにも手首につけてい─


 ……いや、待て。


 この小娘は一体何をしようとしている?

 
「ちょっと待ってくれ」
「なんでしょう?」
「その機械…何をするつもりなんだ、嬢ちゃん」


 俺は、話を聞いてもらうために来たんだ。

 小娘に組紐を組んでもらうためではない。


 母さんだけでいいんだ。


 俺には、母さんがいれば。

 組紐を組むのも、飯を作るのも、散歩をするのも。


 母さんさえそこにいてくれれば、そこが俺にとっての家だった。

 怖いものなんてなかった。


「あなたの“悪夢”を晴らうつもりです」
「……は?」