「奥様は何色がお好きですか?」
「桃だ」
『桃は見ても綺麗で、食べても美味しいでしょ。だから、あたしは桃が大好きなのよ』
そう言って母さんは茶目っけたっぷりに笑うのだ。
結婚してから、何度桃が食卓に並んだか数え切れない。
散歩道で見かけるたびに、家族みんなで食べるたびに、母さんはそればっかり言っていた。
その言葉を思い出してか、口が自然に答えていた。
俺の返事に、少女はじっと空中を見つめる。
「おい、お嬢ちゃん?」
「…あ、あった!」
大きな目を忙しなく動かして、悩む素振りを見せる。
一体、この夢宮を名乗る少女には何が見えているのだろう。
満面の笑みで、何もない空中に手を伸ばした。
そして少女はぎゅっと、組紐を握り込む。
すると、組紐が温かな桃色の光を纏った。
「母さん………」



