惚気話で聞かされた、数十年も昔の恋人たちの名を、今なお記憶していた自分が悲しかった。
『ありがとうねぇ、茂さん』
……茂じゃない。
それは元恋人だ。
あいつは、母さんのためにここまでしない。
俺の作ったまずい料理を食べて、それでも嫌な顔ひとつ見せない母さん。
今度は自分が作るのだと嬉しそうに宣言して。
具合の悪い日に、本当に台所に立とうとして。
火傷をしたら大変だと俺が言えば、ちょっと頬を赤くして。
呼ばれたのは俺の名前じゃなかったが、それでも母さんのために料理番組を見返すようになった俺がいた。
……次に感謝されたのは、俺じゃなくて太郎だった。



