削除されたメッセージにはなんと書かれていたのだろうか?

 綾香にメッセージを送ったが、いつまでたっても既読にはならなかった。
 電話も通じない。

「待っていてくれたわけではなかったのか……」
 企画書という形で「もう二度と会えないなんて嫌だ」とメッセージを残してくれた彼女は、「疑われたまま、関係が終わった」と思ったのだろう。
 半年以上連絡を取らなかったから。
 メッセージを見てしまえば返信したくなると思い、既読にすらしなかったから。
 
『私の結論です』
 悠斗は、胸が張り裂けそうだった。
 会社を辞めた綾香がどれほどの孤独の中で、あの企画書を書いてくれたのかを今さら痛感する。
 
 綾香にとっての「結論」は、仕事を通して愛を証明すること。
 そして、受け止められなければ身を引くことだったのだ。

 悠斗は、あの日の自分を呪った。
 業務命令だからと綾香を突き放さず、せめて一言でも「信じている」と伝えるべきだった。

「俺は取り返しのつかないことを――」
 悠斗は既読にならないスマートフォンを握りしめながら、愚かな自分を後悔することしかできなかった。


 悠斗が手がけたゲームは、社会現象になるほどのヒットとなり、彼は社内で一躍ヒーローとなった。
 だが、心には穴が空いたままだった。
 望んでいたのは、綾香と「二人で祝杯」だったのに。

 毎週金曜日の夜8時にあのスーパーを訪れたが、もちろん綾香に会うことはなかった。
 鮮魚コーナーの店員に尋ねたら、いつだったか覚えていないが半年ほど前、泣いているのを最後に来なくなったと教えてくれた。
 おそらく会おうと約束したのに行けなかった事件の日だ。

 悠斗は出会いのきっかけになったカニとマグロを買い、あの日と同じメニューの夕飯を作った。
 もう綾香はSNSを見ていないかもしれない。
 だが、悠斗は8ヶ月ぶりに写真をUPする。

『あの時間にあの場所で。もう一度』