流出したのは、企画のコア部分。
 だったら、そのコア部分を別のアプローチで展開すればいい。
 テーマは変えない。
 ターゲット層とゲームシステムを大胆に変更すれば、ライバル会社のゲームとは全くの別物になるはずだ。

 ゲームの作り方なんて知らない。
 でもたくさん調べた内容は頭の中に入っている。
 綾香は手書きで資料をまとめ始めた。
 食事も睡眠も忘れ、数日かけて完成させたこの企画は、前回の企画よりも革新的になったのではないだろうか。
 実現できるのかはわからない綾香は、この企画を悠斗に託すしかなかった。
 
 日曜日の深夜、誰にも見つからないように綾香は悠斗の住むマンションへ行った。
 ポストの前に立ち、震える手で完成したばかりの「企画書」と、たった一枚の「手紙」を投函する。

 手紙には、ただ一言だけ。
 
『私の結論です』
 
 愛の言葉は書けなかった。
 今は、仕事で想いを証明するしかないから。
 
 名前も書けなかったその手紙を悠斗が見てくれたらいいなと、綾香は祈ることしかできなかった。


 翌朝、悠斗は気が乗らない重い体を引きずりながらポストを開けた。
 会社から自宅待機を命じられ、事実上の謹慎状態。
 綾香に連絡できないもどかしさと、企画が潰れた責任感で心は荒んでいた。

「……なんだ?」
 ポストに入っていたのは、宛名もなにもない茶色いA4の封筒。

『私の結論です』
 中身は小さな手紙と分厚い手書きの企画書。
 悠斗の心臓が、ドクンと強く鳴った。

 そこには流出の被害をゼロにするどころか、さらに未来を見据えた大胆かつ繊細なゲーム案が広がっていた。

「綾香……」
 悠斗は急いで部屋に戻り、企画書をテーブルに広げる。
 ペンを手に取り、夢中で隙間に設計を書いた。

「綾香の潔白を証明し、二人で成功する」
 この企画を知っているのはおそらく綾香と自分だけ。
 会社に持ち込むリスクは冒せない。

「綾香、もう少しだけ待っていてくれ」
 悠斗は在宅勤務という名の謹慎状態を逆手に取った。
 あの輝いていた綾香の笑顔を取り戻すことだけを目標に、悠斗は夢中でゲームを作り始めた。