「絶対に違う」
 悠斗はゲーム会社の会議室で強く「綾香ではない」と言い張った。

「だが、流失が起きたのは事実。しばらく連絡は控えるように」
「ですが」
「業務命令だ」
 共犯だと思われたくなければ調査が終わるまでは接触禁止と言われた悠斗は、わかりましたと答えるしかなかった。

 綾香の調査をもとにコンセプトを固め、ゲームの大まかな内容も決まり、いよいよプロジェクトチームを結成しようという段階だった。
 それなのにライバル会社から突然の新作ゲームの発表があり、あろうことかコンセプトやターゲット層が丸被りだったのだ。
 ゲーム自体は違うものの、同時期に同じようなゲームの発売はできない。
 悠斗たちは企画段階で終わりだという結論が先ほど部長から告げられ、もうこの決定は覆らない。
 唇を噛みしめた悠斗は、あの輝いていた綾香の笑顔をこんな形で裏切ることになった自分自身が許せなかった。
 
 スマートフォンには綾香からのメッセージ。
 電話の着信も入っている。

「接触禁止……」
 メッセージを見てしまえば絶対に返信したくなる。
 悠斗は眉間にしわを寄せながら、綾香からの通知をOFFにした。

   ◇
 
 会社を追い出され、悠斗との連絡が途絶えてから、すでに一週間が経った。
 何度か悠斗のSNSを見たが、一度も更新されていなかった。
 
 もうあのスーパーにはいけない。
 会社も辞めて、実家に帰ろうか。
 そんな思いがよぎった瞬間、ふいにUSBメモリが目に入った。

 このUSBメモリははじめて会った日に、コンセプトが弱いと言われたデータが入っていたもの。

 眠る時間が減ってもいいから声が聞きたい。
 非効率だとわかっているけれど、毎日会いたい。
 
 ……だから、このままじゃ終われない。
 もう二度と会えないなんて嫌だ。

 綾香は、震える手でタブレットの代わりにノートとペンを握った。