「でも、ゲーム会社に行きたかったなぁ」
「廊下にたくさんゲームが飾ってありましたよ」
「見たかった〜」
 野々山は綾香の集めた資料を手に取る。

「男性向けは……」
 野々山はデータを見ながら、ジャンルを解説してくれる。

「狙い目はここかな」
「どうしてですか?」
 他の数字とあまり変わらないのに、ある一箇所を指差した野々山に綾香は首を傾げた。
 
「それなりに人気もあるジャンルなのに、飛び抜けたヒット作がない」
「そうなんですか」
「発売したタイトル数を調べてみたら?」
 野々山の親切なアドバイスに、綾香は立ち上がってお礼を伝えた。

 調べて、まとめて、次の資料を探して。
 いろいろな角度からデータを集めた綾香は、悠斗に進捗を報告する。

「すごいな、綾香」
「もともと担当予定だった野々山さんが教えてくれて」
「あぁ、ゲーム好きって言っていた?」
「そう」
 綾香と悠斗は毎週金曜夜8時にあのスーパーで待ち合わせをし、一緒に夕食を作ることが定番になった。

「あんまり親しくするなよ」
「妬いてくれるの?」
 嬉しいと綾香が笑うと、悠斗は困った顔をしながら揚げ物をする。
 
「来週には報告書が完成すると思う」
 毎週会っているのに、仕事中にも会えると思っただけで胸がきゅんとする日が来るなんて。

 ずっと仕事と恋愛の両立は無理だと思っていた。
 孤独は効率的で、誰にも邪魔されず、誰にも心を割く必要がなく、余計な時間を取られないと。

 それなのに、悠斗に会いたいと思ってしまうのが止められない。
 眠る時間が減ってもいいから、ただ声が聞きたい。
 非効率だとわかっているのに、毎日でも会いたいなんて今までの自分からは考えられない。

「急に静かになってどうした?」
「ううん。ただ、すごく幸せだなぁって」
「なんだそれ」
 重い女だって言われたくないから、週1回の絶妙な距離のまま。
 まさか自分がこんなに夢中になるとは思わなかったなと思いながら、綾香は今日も恋する乙女として、悠斗のSNSを一番乗りでいいねした。