「今日の狙いは?」
「そうだな。二人で食べるなら、鯛はどうだ?」
 二人で食べるなら!?
 その言葉に綾香の顔はいっきに赤くなる。

「鯛めしでもいいし、塩焼きもうまそうだ」
「鯛めし!」
 ちょっとお高い店でした食べられないものが家で作れるの?
 どうやって?

「最近、少しだけ料理をはじめたの」
「じゃあ、一緒に作るか」
 悠斗は時計を見ながらそろそろだと準備する。

「売れ残るといいけれど」
「そうね」
 今日の綾香は無謀にもあのタイムセールに突っ込んで行こうだなんて思わない。
 悠斗の隣で8時の開始を大人しく待つことにした。

 ベルの音が鳴り響き、争奪戦が始まる。

「嘘でしょ。あの中にいたの?」
 もしこの光景を先に見ていたら、絶対にカニには挑もうとしなかった。

「ハイヒールでよく戦おうと思ったな」
「……こんなにすごいとは思わなかったのよ」
 恥ずかしすぎる。
 むしろハイヒールが折れた程度ですんでよかったと思えるほどの地獄絵図に綾香は苦笑した。

「行ってくる」
 悠斗は人が捌け始めた鮮魚コーナーに向かい、爽やかに鯛を手に取って戻ってくる。

「再会を祝って、鯛めしで」
 鯛のパックを片手に口の端を上げた悠斗に、綾香は「今日こそ私が払うわ」と微笑んだ。
 

 2回目の悠斗の部屋は前回とあまり変わっていなかった。
 白と木目を基調とした綺麗な部屋、ピカピカに整ったキッチン、そして大きなパソコンモニタ。

「今日もサラダ担当でいいか?」
「大丈夫よ。キュウリはもう切れるようになったから」
 綾香は皮むきはできないけれどと付け加えながら手を洗う。
 悠斗と二人きりの空間に、自然と頬が緩むのを感じた。