上司と一緒に向かった先は、綾香でも知っているゲーム会社だった。
 
「ゲームの広告ですか?」
「そう。男性向けのゲームだから野々山くんが適任かなと思ったんだけれどね」
「ゲーム好きですもんね」
 そうそうと笑いながら上司は建物に入り、受付をすませる。
 優しそうな受付嬢に会議室の場所を教わった上司と綾香は、綺麗な白い廊下を進んだ。

「このゲーム、昔やったなぁ」
 廊下に飾られているゲームに上司は足を止め、懐かしそうに眺める。

「子どもの頃、なかなか買ってもらえなくてね」
「ゲーム機本体も必要なんですよね?」
「本体が高くてね。やりたいゲームが持っているゲーム機じゃなかったときは絶望だったな」
 友達の家に行って遊んだと上司は雄弁に語る。
 ゲーム好きな野々山だったら、もっと盛り上がったのだろうなと思いながら、綾香はショーケースに夢中な上司を笑った。
 
「すみません、お待たせし……綾香さん?」
「え? 悠斗さん?」
 スーツ姿の悠斗なんてご褒美だろうか?
 システムエンジニアって言っていたけれど、ゲーム会社だったんだ!
 綾香はなぜかあのキーボードと変わったマウスを思い出し、妙に納得できてしまった。

「あれ? 知り合い?」
「先日、助けていただいたんです」
 首を傾げた上司に綾香はパンプスのヒールが折れたんですと正直に話す。

「そんな漫画みたいな」
 女性は大変だねぇと笑う上司に、タイムセールの熾烈な戦いで折れたとは恥ずかしくて言えなかった。

「どうぞ、中へ」
 悠斗に会議室へ案内され、名刺交換をする。
 ビジネス名刺だけれど、メールアドレスも電話番号も載っているし、今日話がうまくまとまればお礼のメールを出すくらいは許されるはずだ。
 明日、野々山に引き継いだとしても、今日メールを送るならセーフ。
 
 これは絶対に話を進めなくては!
 
「今日、営業の佐久間が同席するはずだったのですが、体調不良で。すみません」
「弊社の野々山も体調不良で急遽、佐藤に」
 冬は体調不良が増えますねと雑談しながら要望を聞いていく。

「担当は野々山さんということでしたが、このまま佐藤綾香さんでお願いすることは可能でしょうか?」
「私、ゲームは詳しくないので野々山の方が適任だと思います」
「まったく新しいゲームを作るために、市場トレンドや競合調査をお願いしたいので、逆にゲームに興味がない方が良いかと」
 てっきり新作ゲームの広告作ってほしいという依頼だと思っていた綾香は悠斗の言葉に驚いた。