翌日、上司は大絶賛だった。
 これもすべて悠斗のおかげだ。
 夜、靴を返しに行ったが悠斗はいなかった。
 
「会いたかったな……」
 玄関に靴とお礼を置きながら綾香は思わず呟く。
 一瞬、あのスーパーに毎日夜8時に行けば、そのうち会えるだろうと思ったがやめた。
 あのとき一瞬だけ見せてもらったSNSをちゃんと覚えておけばよかったなぁと後悔しながら、綾香は自分のマンションへ帰った。

    ◇

 あれから悠斗に会うことはなく、いつの間にかクリスマスも終わり、年も明けた。
 変わったことといえば、自分の食事がサプリとプロテインバーではなくなったこと。
 まだまだ下手だが、少しずつ料理をするようになった。
 といっても、まだ包丁はぎこちなく、皮を剥くのはピーラーだけれど。
 
 レシピを探していたら、ある日偶然悠斗のSNSにたどり着いた。

「おいしそう」
 もちろんすぐに『いいね』だ。

「あのスーパーにアワビが売っていたんだ」
 半額セールの争奪戦を思い出した綾香は思わず笑ってしまった。
 きっとこのあわびも壮絶な戦いのあと、残っていたものを悠斗がお買い上げしたのだろう。

「会いたいな……」
 でも、もう会う理由がないし。
 綾香はSNSをそっと閉じ、午後の仕事に取り掛かった。
 
「あ、佐藤さん。野々山くんどこに行ったか知らない?」
「体調不良でお昼に帰りましたよ?」
 上司の問いに綾香は知っている限りの情報を伝える。
 上司は「うぅん、困ったなぁ」と悩んだ末、綾香をチラッと確認した。

「2時から新規の打ち合わせがあるんだけど、代わりに出てもらっていいかな?」
「何か準備するものありますか?」
「今日は先方のやりたいことを聞くだけだから」
 特にないよと言われた綾香は、会社のパンフレットと過去実績を参考程度に持っていこうと準備する。
 名刺も持った。
 タブレットの充電もOK。
 綾香は深呼吸をすると、ゆっくりと席から立ち上がった。