転校生の美風とはどうも縁があるらしい。
それは休み時間、図書室に行っていた恋と理央と明日香が連れ立って階段を降りていた時のこと。
三人は、理央の借りた小説の話をしていた。
「もしこの小説に友達を当てはめるとしたらクラスで誰が似合うと思う?」
理央が聞いた。
「ヒーローはやっぱり上野くんかな。あの上品な感じが。ハキハキ喋る所とかも。」
「となるとヒロインは恋だよね」
「私、小説をそんな風には思えないけど」
「なんでも良いんだよ。色んな楽しみ方があるもん。恋愛小説じゃなくて冒険小説だけど、ヒロインとの絡みも楽しみだよね。よし、今度は恋愛小説として読んでみようっと。」
恋は、普段小説をあまり読まない。
文字を追うのは面倒だし、絵を描いている方が好きだからだ。
ふと下を向くと、向こうの方から、筆箱を持った美風が階段を登って来ている。
次に恋が口を開きかけたのと、足を滑べらせたのは丁度同時だった。
「わっ」
階段の真ん中で、転げ落ちそうになった恋の体を、咄嗟に、腕を伸ばした美風が抱き止めていた。
「……」
「新田さん、大丈夫?」
美風が普段と変わらない声音で優しく聞いた。
「気をつけてね。」
美風は平然とした顔で恋を見下ろした。
腕を降ろした美風は振り向くと手を振ってから歩き出した。
「ナイスキャッチ。すっごい偶然。樋山くん王子様みたいだったね。」
理央が小声で言った。
「そういえば、樋山くんと恋、よくこそこそ話してるけど、いつの間にそんなに仲良くなったの?。きっかけは?。」
「……」
恋は困った顔をして、曖昧に笑った。
