その日の美術の授業は絵画の鑑賞だった。
教卓に色んな画家達の画集が山と並べられ、生徒たちはそこから好きな物を選んで取って感想を書く。
恋は散々迷ってからある画家の風景画を選んだ。
グループ用の大きなテーブルで、シャーペンを取って用紙に感想を書こうとしていると、ふいに人の来る気配がして、後ろから声がした。
「へえ」
振り向くと、美風が机に片手をついて、恋の開いた画集を見ていた。
「樋山くん」
「新田さん、その絵好きなの?」
恋は、夕方を描いたその絵を見て、黙ったま頷いた。
ピンクとオレンジと黄色の夕焼け空を、鳥が飛んでいく。
繊細な色使いは抽象画の様にも見えた。
「その画家、まだ生きてるよ。夕焼けの絵が好きで、夕焼けばっかり描くんだ。」
美風は隣の椅子を引いて座った。
「一人暮らしで好物はサンドイッチ。絵は夜にしか描かない。猫を飼ってて大事にしてる。有名になってからは、大判の絵ばっかり描いてる。」
「どうして知ってるの?」
「うちに絵があるんだ。一昨年に買った。直接買ったから話をした事もある。」
美風は頬杖をついて、恋の画集をパラパラと捲った。
宵闇に金星の絵。
朝焼けの絵。
また夕方の絵。
美風が顔をあげた。
「画家がどんな事を思いながら絵を描いてるか気にならない?」
「なる、けど。」
「今度聞いといてあげるよ。懇意にしてるんだ。小さい絵なら描いて貰えるよ。」
「良いの?」
恋が嬉しそうにすると、美風は微笑んで、画集を元のページに戻して置いた。
「新田さんって、笑うと子狐みたい。」
美風が言った。
「……」
「駄目だよ。もうやっちゃ。……僕の秘密にしとこうっと。」
美風はそう呟くと、隣で違う画集を捲り始めた。
