次の日、恋が新聞部の部室に呼ばれていくと、部室のテーブルの上には黒白王子のグッズが沢山並べられていた。
「……」
「いらっしゃい。よく来てくれたわね。」
「……商品」
「今日は黒白王子の三角関係の頂点に、黒白王子の公式グッズを検品に来て貰ったの。」
「はあ」
テーブルの上に置かれた下敷きや筆箱や団扇やブロマイド見て、恋は肩をすくめた。
宗介と美風がそれらグッズをどうにかして回収しようとしていたが、伊鞠はその度に何かと口実を作ってどうしてもそうさせないのだった。
恋は宗介がこれを見たらなんて言うだろう、と思って苦笑いを堪えた。
「例えばこのブロマイド」
伊鞠が口を開いた。
「黒王子が休み時間に居眠りしてたところを抑えたの。どう?。眠ってても端正なこの顔!。見てると安心するでしょう。」
恋が宗介のブロマイドを取って見ると、宗介のオフショットは拡大されて美しい銀色の枠が加工されていた。
「近くで見ても上野くんは綺麗よね。特に三角形の眉毛。ちょっと濃いけどそこがまた男っぽいというか。良いわよねえ。」
「……」
「それからこっち。白王子のブロマイド。樋山くんが窓の外を眺めていたところを撮ったのよ。うーん、この美しさ。色素が淡いのは樋山くんならではよね。まるで王子様みたい。」
伊鞠は今度は雨降りの窓枠に凭れている美風のブロマイドを恋に手渡した。
「綺麗な薄い色の瞳、まるで吸い込まれそうでしょう。持ってると幸福になるブロマイドよ。お墨付きよ。1枚たったの500円」
恋は怪しげな商法の売り手と化した伊鞠に力なく笑った。
「それからこのペンケース」
伊鞠は今度はとキャンバス地のペンケースをひとつ手に取った。
「黒白王子の二人三脚の時の写真をモノクロでプリントしてるの。黒白だから。顔はあんまり見えないけど、雰囲気あるわよね。」
「はあ……」
「それからこのキーホルダー、よくよく見ると小さい顔写真が透明プレートの中に入ってるのよ。真正面と横顔、ちょっとマニア向けに後ろから見たところなんかもあるわ。面白いでしょう。」
「あの……」
終わらない商品紹介に、恋は遠慮がちに、今日はどうして呼ばれたのかを聞いた。
伊鞠は嬉しそうな顔をして言った。
「それはもちろん、グッズ販売の許可を三角関係の頂点から貰うためよ。」
「困ります……」
「私達は考えた!。黒白両王子が納得する良い口実を!。新田さんがほんの少し協力さえしてくれれば、すべて上手くいくのよ。ね、ね、ここにサインをして頂戴。」
「……グッズはサービス」
「お願いお願い!。黒白王子グッズあげるから。ね?」
恋は考えておきます、と言葉を濁して、引き止められる前に急いで新聞部の部室を出た。
