握手会の会場に伊鞠は学校の講堂を貸し切っていた。
恋達が暗いホールに入ると、伊鞠がスイッチを付けて、舞台の真ん中だけライトアップされた。
恋が舞台袖から様子を見ていると、講堂には既に20人位の女の子達が集まっていた。
舞台に引き出されたテーブルには、黒白王子のブロマイドやキーホルダーなど色々なグッズが置かれ販売されていた。
「やってらんねえ」
講堂の舞台袖で、宗介が毒づいた。
宗介は自分の手を見ながら、この手がこれから握手をするなんて悪夢だ、と考えていた。
もうすぐ4時になる。
美風は客席の方を伺いながら、
「写真よりはましかな。」
と恋に呟いて、複雑な顔をした。
「黒王子とか白王子とか言って騒いでる奴らに、一言馬鹿じゃない?って言ってやりたい。頭悪い。どう考えてもおかしい。くっだらな、握手なんてしてどうなるんだよ?。まったく何が楽しいんだか。」
「馬鹿は馬鹿だけど僕らに好意がある馬鹿だから。僕は知らない人からの好意でも好意は大切にしろって教わって育った。テンション下がるけど、今回はしょうがないな。」
「加納先輩は盛り上がって行こうって言ってたけど、僕は腹が立つだけだ。僕は恋以外の女子はどうでもいい。はっきり言わせて貰えば恋以外の女子は目障りで邪魔なくらいだ。樋山が遊んでやれよ、そんなに優しくしたければ。」
「僕は優しくしたい訳じゃない。できれば関わりたくない。女子達は馬鹿なんだ。新聞部に踊らされて。気の毒に。おつむがだけど。ああ鬱になる。」
「付き合ってらんない。僕、ちょっとトイレ」
宗介が寄りかかっていた壁から背を離し袖を降りていった。
