それから何週間か経った放課後、2−1の教室に伊鞠が現れた。
教室では、恋と宗介と美風と理央が、今日あった授業ついて喋っているところだった。
「あ、加納先輩」
理央が気づいて声を掛けた。
伊鞠は恋達のところまで来ると、腕組みをして言った。
「ちょっと!。あなた達、今日が何の日か知ってて?」
「今日?。何かありましたっけ。」
美風が目を瞬いた。
「祝日じゃないし。記念日でもない。なんかの行事だったかな?。僕は覚えありません。」
「何かの日だったっけ?。委員会とか?」
「うーん、なんかあったような……」
考え顔をした理央が、あ、と声を上げた。
「なんか壁新聞に載ってましたよね。今日イベントだって。」
「駒井さん、大正解!」
「なんのイベントだったけ。思い出せない。なんか面白そうなイベントだったけど。なんのイベントなんですか?」
「それを当てて欲しいのよ。」
「当ててかあ……あっちょっと待ってください。私確かコピー持ってて……」
理央は持っていた鞄を開けて中をがさごそやりだした。
「駒井、お前、なんでそんなもんのコピー持ってんの」
「面白いからファイリングしてるんだよ。私興味ある。溜めて後で見るんだ。あ、あったあった。」
理央は薄いファイルに入った今週の壁新聞のコピーを見ると、目を見開いてぶっと吹き出した。
「今日の夕方4時から、黒白王子の握手会だって!」
「はああ?」
宗介が理央の新聞を覗き込むと、四角で囲ってある隅に、今日示す日時が書かれていた。
「キミたちに打診し忘れたのよ。黒白王子の絶賛!握手会!。今日がその日なの。ねえ、協力してくれるわよね?」
「する訳あるか。僕帰ります。これからまっすぐ家に。」
美風がげんなりした顔で言った。
「握手会なんて絶対嫌だ。死んでもしない。毎回言うけど、先輩達なんか勘違いしてません?。僕たち一般人です
よ。変な呼び方されてるだけで。ありえない。」
宗介が怒りをあらわにしていった。
「そんな事言ったって、もう募集かけちゃってるのよ。黒白王子の握手会は、新聞部が主催する一大イベントなの。告知は地味だけど、問い合わせはもうこれ以上ない位来てる。大人気よ。黒白両王子、キミたちは今日はどうしたって来てくれなきゃ。」
「それは新聞部が悪いんでしょ。勝手な企画して、どうかしてる。僕たちの責任じゃありません。知りませんよ。」
「楽しみにしてる子一杯居るわ。今日だけ。特別イベントなのよ。グッズも一緒に沢山販売してる。引きずってでも黒白王子を連れてきてくださいって言われてるの。お願いお願い、収益見込んでるのよ。」
「グッズ?」
「知ってる知ってる。キーホルダーとか筆箱とか下敷きとかだよ。もちろんブロマイドもだけど。校舎裏の販売会で売ってたよ。」
「駒井、なんで止めてくれないんだよ?」
苛立った顔で宗介が言うと、理央は笑いながら言った。
「何で?。私筆箱と下敷き買ったよ。黒王子のと白王子のひとつずつ。2人で写ってるのはちょっと高いんだよね。無理だよ上野くん、止まんない。」
「はああ?」
「信じられない、そんな事をしていたなんて。」
「大人気なのよ。もし来てくれないなら、新田さんを出しにするしかないわ。」
伊鞠の目が光った。
「ファンの中には新田さんをよく思ってない子も居るから、そういう子達に新田さんを傷つけられたくなければ……ね。」
呆然としている恋に笑いかけながら、伊鞠が今度は縋る様に言った。
「お願いお願い今回だけ!。樋山くんも上野くんも恩に切るから!。今日だけ2人を借りたいのよ。」
宗介と美風は苛立った顔をして顔を見合わせた。
