放課後。
教室に忘れものをしてしまって、一旦家に帰ってからまた学校へ来た恋は、廊下を歩いていた。
窓から風が入ってきて恋の髪を攫う。
恋は、髪を切ろうか考えていたが、結んでしまえば同じだという気もしていた。
ガラガラと戸を開けて教室に入ると、黒板の前の教卓の椅子に、なぜか黒沢さんが1人で座って居た。
黒沢さんが顔をあげた。
「あ、新田さん」
話さずに出ていこうと思ったのに、黒沢さんは目ざとく恋に声を掛けた。
教卓の上で指を組むと、黒沢さんはうっとりした顔で言った。
「これから原くんと待ち合わせしてるんだ。校舎裏で2人で喋るの。そろそろ夏休みだね。」
「そうだね。」
「ねえねえ、新田さんって上野くんとこの頃どう?。新田さんには彼氏が居るから言えるんだ。私、原くんと星祭りに行くんだよ。」
「知ってるよ。」
恋は呆れ顔で言った。
「西木くん、かわいそうだよ。振り回しちゃ。」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと言ったから、友達としては好きだって。それも大事な事だよね。」
黒沢さんは自分の恋の話をするのが大好きで、できれば恋にもその話をしたかったのだが、恋はちょっと困惑した顔をした。
「迷惑になってもそうするの?」
「だって仕方ないよ。原くん、好きになっちゃったんだもん。もう他の人なんか見えないよ。」
「ふーん。」
「誰かを好きになるって楽しいよね。友達以上恋人未満より、ちゃんと付き合ってる方が絶対楽しいよ。私最近その事ばっかり考えてる。」
恋は黙って自分の机へ歩いた。
「付き合ってからが楽しいって言う人も居るけど、試してみるまで分かんなかった。西木くんで分かった事いっぱいあってね……え、新田さん、もう行くの?」
筆箱を取った恋がすぐに教室を出ようとしたので、黒沢さんは教卓からちょっと驚いた声を出した。
「待ってよ、まだ話してないのに。」
「うーん……今日はちょっと……ごめんね。」
恋は黒沢さんと目を合わせないまま、教室を出た。
