恋は、仕方ないので元来た道を戻りながら居たが、ふと、歩きながら熱帯魚の展示に目を奪われた。
その展示は壁一面の水槽で、トロピカルな色合いの珊瑚礁に、熱帯魚が数匹、ゆったり泳いでいる。
その魚の色合いが綺麗だったので、恋は、しばらくその展示を見ていることにした。
オレンジに黒と白の縞が付いた魚を目で追っていると、後ろからぽん、と優しく頭を叩かれた。
「新田さん」
振り向くと美風だった。
「みんなで手分けして探してた。まったく。一体どうしてキミはすぐ居なくなっちゃうの?」
「ごめん」
美風はふう、とため息をついて水槽を見やった。
薄暗い水族館で見る美風の横顔はドキドキするほど美しい。
「新田さんに質問」
美風がふと口を開いた。
「今まで生きてきて嘘ついた事ある?」
「嘘?」
「キミと心の中の話がしたくて。恋愛じゃないところからもアプローチしようと思って。いきなりこんな事聞いてごめんね。」
それから、
「最近、キミと話せるチャンスがない。上野がいつもキミを独占してる。そんな風にしていいのは本当は僕だけなのに。傷つく。僕を選ばなかった事、いつか絶対後悔するんだからね。」
と言った。
「……多分ない、かな。」
恋が考えながら言うと、美風は今度は首を傾げて頷いた。
「そっか。新田さん、僕がそういう事聞くの、特別だからだからね。」
「特別って?」
「僕ただの友達とそんな話しない。特別な女の子とだけするんだ。心の中の話は、何でもない人とする物じゃない。嘘って心の中の話だよ。もっとも、僕も嘘付いたことなんてないけど。」
それから続けた。
「キミは、水族館で、僕に嘘についての話を聞かれた、と覚えるでしょう。その話は印象的でしょう。忘れられないでしょう。わざと思い出を積み重ねて、キミを自分のものにする。良い考えでしょ?。」
ニコっと笑った美風に、さっきの魚は、珊瑚に隠れてもう見えなくなっている。
