ホテルのロビーには人が居なかった。
宗介は辺りを見回して、誰も居ないのを確認すると、
「狐」
と一言言った。
恋が白い煙をあげて子狐の姿になると、宗介は恋を肩に抱き上げて言った。
「食べ過ぎ。もう。自分の事なんだから自分で考えろよ。向井に影響され過ぎ。今日はケーキ選びで失敗したね。」
宗介は恋を抱いたままロビーの壁際のソファに座った。
「僕の狐。外の空気で、早く体調治せよ。まったく。馬鹿なんだから。」
それから宗介は恋を顔より高く抱き上げた。
ホテルのロビーに、狐を掲げて見上げる男の子が1人。
静かなロビーで、その表情は何を考えているのかちょっと読めなかった。
「加納先輩も石巻先輩もほんとに僕たちだけ誘ってくれれば良かったのに。そしたらもっとゆっくり食べたられたのにね。おいしいはおいしかったけど、恋がこれじゃあ。ほんとに。しょうがないんだから。よしよし。お前は僕の可愛い狐。かわいそうに。」
宗介は小声でそう言ってから、勢いよく恋を降ろすと、肩に抱き直して優しく背中をぽんぽんと撫でた。
