しばらく女子達とじゃれていた恋は、だんだん騒がれるのに飽きて、クラスメートの1人の腕から離れた。
そのまま歩いて森へ入ると、もう女子たちは追ってこなかった。
森の木々は静かで爽やかで、緑の葉には初夏の趣がある。
ふいに、何かが鼻先を掠めたので、恋は瞬きした。
目の前をふわふわ飛んでいくのは美しい蝶だった。木々の間をすり抜けて、森の奥へと入っていく。
子狐の恋は蝶を追いかけて走った。
蝶はひらひらと飛び回った。やがて一本の木の上に止まった。
子狐の恋が木に登って、蝶を捕まえようと腕を伸ばすと、その瞬間蝶はひらりと枝を離れ、また違う木へ移ってしまった。
恋は木から降りようと下を見下ろしてどきっとした。
恋は木に登るのは得意だったが降りるのは大の苦手で、今までその事を忘れていた。
高い枝まで登ってしまった恋は木から降りる事ができなかった。
────どうしよう。
枝の上で、子狐は途方に暮れた。
トレーを片付けながら、宗介はあちこち見回って恋を探していた。
恋は、カレーが出来上がって昼食を取る時間になっても戻らなかった。
片付けが終わると、先生が点呼を取る集合時間になる。それまでには連れ戻さなければ。
宗介はがやがやしている生徒たちの間をそっと抜け出して一人歩き出した。
恋は、木の上から下を見ていた。
上から見ると、下の地面は遥か遠く思われた。
枝伝いに降りたらとも思うが、もし手元が狂ったらと思うと怖い。
でも、いつまでもそうしてうても仕方ないので、恋は、太い幹を、目をつぶりながら後ろ向きで降りることに決めた。
