お昼になると、先生の号令でキャンプグッズが貸し出され、生徒たちはキャンプ場でがやがやとカレーの支度を始めた。
賑やかに調理を始めた生徒たちから離れて恋は、素知らぬ顔で森の方へ向かってこっそり歩き出した。
「こら恋」
しゃがんで米の火加減を調節していた宗介が、恋に気づいて顔を上げた。
「どこに行くつもり?」
恋は応えなかった。
そのままさっと身を隠すように木の後ろに隠れる。
宗介が立ち上がる前に、木の後ろから白い煙が舞い上がった。
もくもくした煙が薄らぐと、そこに居たのは一匹の子狐。
宗介は慌てて恋に走り寄った。
「馬鹿、お前変身はしない約束だろ!」
子狐は捕まえようとした宗介の手を軽やかにすり抜けた。
「早く元に……」
「あ!狐が居る!」
最初に恋に気が付いたのは焚き火の前でじゃが芋を切っていた明日香だった。
明日香はまな板に包丁を置くと、しゃがんで子狐の恋に近づいてきた。
「上野くんどこで見つけたの?。怖くないよ。こっちへおいで。」
「……」
「わ、」
宗介の見ている前で、恋は明日香の腕の中へジャンプした。
明日香は子狐を抱いて、肉を炒めていた理央に子狐を見せにいった。
「理央、狐が居た。こんな山の中に。」
「あ、すごい。本当だ。本物だね。」
「ふわふわ。可愛いね。この子赤ちゃんじゃない?まだ」
「可愛いなあ。親狐は居なかったの?」
「居ないみたいなんだ。上野くん動物に懐かれやすいのかな?。さっきこの子だけ上野くんと居たの。」
「どうしたの?」
「わあ、狐が居る」
理央と明日香が子狐をあやしていると、クラスメート達が次々と駆け寄って騒ぎ始めた。
「可愛いね。尻尾フサフサ。美人さんだね。」
「ちっちゃーい。目なんかきらきらだし。肉球気持ちいいね。」
「子狐だね。いい記念になった。居るんだねえキャンプ場にも。」
「逃げないんだ。人懐っこいね。可愛い。」
子狐の恋は、撫でられたり、褒められたりとわいわい大人気。
女子達は順番に子狐を抱いてあやした。
宗介は苛々した表情でそれを見ていたが、女子達が恋を離さないので、仕方なく横目で子狐を睨みながら食事の支度に戻った。
