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「新田さん」
ある日、恋がマンションの自室に居るとノックをしてから美風が顔を出した。
「なに?」
「コーヒー飲まない?」
「え」
「たまにはゆっくり。」
恋は美風についてダイニングに入った。
「さっき豆挽いた。新田さんが部屋に居た間に。地下の店で買ったコーヒー使って。」
美風が言った。
「挽きたてだよ。いい香りがするでしょ。その店、コーヒーの専門店だったんだ。」
「僕ブラック」
廊下の向こうから宗介がやってきて言った。
「なんだ、上野も居たのか。面倒くさいな、お前も飲むのかよ。僕と新田さんだけで良かったのに。」
「違反。約束破り。恋、樋山と二人でチャラ付くな。お前の彼氏は誰?」
恋は、美風が3人分のコーヒーを淹れるのを見ていた。
「平穏。平和。こういうゆっくりできる午後もなきゃ、異世界人はやってられないよ。」
美風が言った。
「もうすぐ正午になるしね。新田さんミルク要る?」
「あ、お願い」
「恋、ミルク淹れると頭冴えないよ。」
宗介が言った。
「コーヒーはブラックじゃなきゃ。甘いもの食べる時丁度いい位の。意識がはっきりしない。僕はブラックで飲む。」
「ふーん。僕はミルクたっぷり淹れるな。」
美風が宗介の言葉に関心なさそうに言った。
「たっぷり淹れて和むよ。ゆったりできる。こういう常日ごろの非常事態でもね。」
「非常事態って?」
「「異世界」」
宗介と美風の言葉が重なった。
「新田さん、言っとくけど、今も超非常事態だからね?」
美風が怒り笑いで言った。
「こんな時こそって思ってお茶誘ってる。新田さん、異世界来てるの忘れてるでしょう。」
「恋は呑気過ぎて。どうしようもない。馬鹿なんだから。」
コーヒーを一口飲んで宗介が言った。
「ああ嫌だ嫌だ。僕は上級魔法覚醒者に登録されて、警備にまで駆り出されるし。向こうの世界にいた時、こんな事思いもよらなかった。なんでこんな目に遭うんだか。」
「そうそう、僕はわざと上級から外れたんだ」
美風が澄まし顔で言った。
「テストする時落として。その方が新田さんのそばに居られるから。まあ当然かな。僕達2人で居るから、上野はその間警備がんばって。」
「……腹立つな。僕も申請し直す。」
そうする事を思いつかなかった宗介は、うんざりした顔をしてまたコーヒーを一口啜った。
