役員室のソファには怪我をした連れ戻された恋が座っていた。
宗介と美風が入っていくと恋は身を竦めた。
「どこ怪我した?」
宗介が尋ねた。
「腕と肘……」
「そう。分かった。頭以外ね。」
そう言うと宗介は思い切りげんこを恋の頭に落とした。
「痛っ……」
「ばかたれ。ったくお前は。一人で出ていく奴があるか。どうしておとなしくしていられないんだよ?。」
「新田さん一人で行こうとしたの?」
美風が叱る時の口調で聞いた。
「駄目に決まってるだろ。キミは魔法覚醒者じゃないんだから。外にはモンスターが居るんだから。まったく何を考えてたの?」
「だって……」
恋ぼそぼそと王立図書館の事を言った。
王立図書館に行けば何か分かるかも、の下りで、宗介はふう、とため息をついた。
「僕はお前が非覚醒者なの全然気にならないけど。」
宗介が言った。
「私は気になる……」
「聞いたけど、女子の場合、覚醒しない事の方が多いんだって。新田さん、気にすることないのに。」
「二人が羨ましい……」
「僕が必ず守ってあげるから、そんな風に言わないで。キミはキミで必要とされてる存在なんだって、ちゃんと分かりなよ。良い子だから、僕の言う事ちゃんと聞いて。」
「……とにかく、この世界では一人きりでウロウロしないこと。もう絶対やるなよ。やったただじゃ置かない。危ないんだから。もう、お前が心配。危ないのを分からないのおかしい。」
「僕も。上野じゃないけど打たれなきゃ分からないようなら打つからね。これは約束。分かった?新田さん。」
「恋、返事は?」
恋は返事をしなかった。
拗ねて狐の姿に変身した恋を抱き上げながら、宗介が言った。
「心配で言ってる。」
宗介は狐の恋に頬を寄せた。
「お前が無事で良かった。影のモンスターって本当に居るんだから。2度目はないよ。な?」
恋は結局、この物語のはじめから終わりまで、魔法覚醒しなかった。
