翌朝、恋が学校に行くと、美風がもう教室に着いていて、自分の席で、頬杖をついて、机の上にアルバムを広げていた。
「樋山くん」
声をかけると美風は顔を上げた。
「新田さん、今日早いね。どうしたの?」
「たまたま早く起きたから、そのまま登校したんだ。樋山くん、何見てるの?」
美風は広げていたアルバムを取ると、恋に渡した。
小さなアルバムの中には、空や緑の写真の他に、見るからに高級そうな室内が写っていた。
ピアノのあるソファの置いてある居心地の良さそうな部屋の写真を眺めながら、美風が言った。
「うち。今度建て替えするから、昔の部屋になるけど。建て増しするんだ。その前の記録の写真。適当に撮った奴だけど。」
「わあ。」
アルバムの最後のページには、恋と美風がブランコで手を繋いでいる写真が収まっていた。
「その写真家に30枚くらいあるよ。焼き増しした。気に入ったから。前にあげたやつ、なくしたらまたあげるよ。欲しかったら言って。持ってくるから。僕の部屋にも1枚ちゃんと飾ってあるんだ。」
美風が言った。
「新しい家にも招待するよ。今はないけど、ピアノ室を作る予定なんだ。お手伝いさんたちも片付けやすくなる新しい家を喜んでて、みんな心待ちにしてる。うちお手伝いさん沢山居るんだ。みんな喜んでるよ。」
それから言った。
「そういや、うちにも、動物セラピーっていって専門家に来て貰って犬が居るんだけど、新田さん犬好き?」
「嫌いじゃないよ。」
「ふーん。ねえ、思いついたんだけど、動物セラピー、狐でできないかな。」
「狐で?」
「狐ってふわふわだしきれいだし可愛いから、懐きさえしてくれればとっても癒されると思うんだよね。なんていったって新田さんだしさ。犬なんか触るより僕なら新田さんと遊びたい。」
美風が笑った。
「ねえ、新田さんが狐になったところ、抱いてもいいでしょう?。優しく撫でるから。」
「樋山」
と、美風の後ろから、今しがた荷物をロッカーに入れたばかりの宗介が現れた。
宗介はしかめっ面を恋に向けてから、美風を睨んだ。
「言っとくけどお前に恋は抱かせないから。それは彼氏の僕の権利だ。僕以外にその権利は渡さない。」
「出たよ。ああうざった。別にいいだろ、僕だってほぼ彼氏なんだし、少なくともお前と同程度の権利があるんだから、少しくらい抱いたって。」
「お前に権利なんかねーよ。ひとつもない。狐になってる時に撫でると懐くんだ。お前にそうやってさせる訳にはいかない。絶対断固拒否するね。」
「上野の言う事なんか聞いてたまるか。それなら新田さんに聞くよ。別に僕が撫でても嫌じゃないでしょう?。狐の時。」
宗介が言った。
「大体、お前は何なんだよ。振られた癖に。これ見よがしにアルバムなんか持ってきて。鬱陶しいったらない。」
「写真は僕の趣味だ、関係ないだろ。僕は何でも写真に残して見るんだ。お前じゃなくて新田さんと見るんだから、お前は引っ込んでろよ。」
「恋に余計な物見せんな。自分の家の写真なんか撮ってきて、何がしたいんだよ。悪影響。目障りだ。」
「うるさいな。僕の家が裕福なのを新田さんに見せるために決まってる。僕のアピールポイントだ。駄目とは言わせない。お前は黙ってろよ。」
恋は、困り顔でうーん、と唸った。
宗介と美風が言い争いをするのは、恋にとって悩みの種だった。
2人は寄ると触るといつも酷い言い合いをした。
それは恋に対する一途さからくるものだったが、恋の方はといえば、自分がこの2人のどちらをより好いているか全然さっぱり分からない始末だった。
「とにかく、恋。樋山とは話すな。教室で話しかけられても無視すること。良いね?。分かった?」
「そんな勝手が通用するか。上野に僕と新田さんの事は関係ない。告白したのだって僕の方が早かったんだ。新田さん。」
しかめっ面の宗介に、恋は小声で、はい、と仕方なく返事した。
