AIスキャンダル

それから、あの男性アイドルは鬱病になったらしく芸能界から姿を消した。可哀想だな、とただ思った。

今では、人間は働かなくていい、家で自由に過ごしていい。自由に恋愛をし、家族と愛をはぐくみ、ネットでできた友達と仲良く過ごして。みんな学校に行かなくて良くなって。

政治も全部、AIがやってくれて。みんな楽しく生きている。

人間は皆、もう動かなくてよくなった。自由に生きれば良くなった。

自分の成長のために必要なものとか、学校で経験できる学校ならではの感情とか、考える力とか。

もう、みんな無くなっていた。

いつか、AIによって、いちばん大事な愛も無くなってしまうのだろうか。

そう思うと、少し怖い。

AIが用意してくれた温かいお茶をすすりながら、そう考える。

ああ、そういえば白髪が増えてきたな。私もそろそろ×んでしまうのか。

もうそろそろ、AIに全てを支配される時代が来るのだろう。あと持って1年か、2年ほどか。

ぼんやりと考える。この世に未練はないが、どうしようもない消失感と哀しみは、いつもどこからかふつふつと沸いてくる。

「ああ、AI、ありがとうね」

AIがおいしそうなうどんを持ってきてくれた。そういえば、夕食の時間だったような。


あれ、お腹があたたかい。

視線をやると、腹は生暖かい赤色で溢れ返っていた。

その瞬間、激痛が私を襲う。現状を自覚した瞬間、とてつもない痛みが波のように押し寄せてきた。

クラクラした頭で、必死に考える。

ああそうか、私は目の前に存在するAIに刺されたのか。これから死ぬのか。

そろそろ寿命が来る時だったから、ちょうどいい。少し先に逝くとしよう。