空耳かと思った。
一度だけでもいいから彼の口から聞きたいと思っていた自分の名前に、ライラはただ茫然とした。
なぜ? どうして? しか浮かばず、はくはくと開け閉めする唇に、セドリックの人差し指があてられる。
「あなたが女の子であることは、最初から知っていました」
「どうして」
ここへ潜り込むための身分証明はうまくいったはず。
なのに彼はいたずらっぽい笑みを浮かべ、ライラの頭から足先まで視線を走らせる。それに落ち着かずにモジモジすると、セドリックは楽しそうにまたクスッと笑った。
「胸板は厚いのに腰は折れそうに細い。丸みのある尻も、間違っても男のものじゃありませんでしたからね」
「なっ!」
布でぐるぐる巻きにしていた胸は男っぽく見えると思ったのに、何かと詰めが甘かったということか。
羞恥で言葉が紡げずにいると、ライラの唇に当てたままの指を、セドリックはスッと横に滑らせる。とたん全身にしびれを感じ、呆然と彼を見つめることしかできなくなった。
「そんな顔をされると、ここでパクッと食べてしまいますよ?」
「っ!」
再びぴょんと跳ね上がり、セドリックに大笑いされてしまった。完全にからかわれている。
しかし彼はライラの正体を知っていた。
それをどう捉えていいのか考えあぐねていると、セドリックは肩をすくめ、少し困ったような顔をした。ライラの正体は、ほぼ最初から気づいていたのだと。
「覚えていないかもしれませんが、わたしと殿下は、以前森で会ったことがあるんですよ」
「わ、忘れるわけがありません! あなたは命の恩人なのに!」



