安心してください、騎士団長様。わたし(雑草王女)との結婚は断固阻止してさしあげます!

 王女との結婚が嫌で、自棄になってるんだ! と気づき、どう言えば彼を安心させてあげられるかと考え、目が泳ぐ。
 しかし彼はゆっくりとコーヒーを飲み干すと、じっと正面からライラを見つめた。

(そんなに見つめられたら穴が開きます! すでに心臓には大きな穴が開いてるもの!)

 そうでなければ、この尋常ではない鼓動は説明できないではないか。
 カラカラになった喉をカフェオレで潤すが、気づけばライラのカップも空になっていた。

 すぐにお暇したほうがいいと思うが、縫い留められたように動けない。

 何か話そうと乾いた唇をなめると、なぜかセドリックの喉が鳴ったので、猛獣の前に出てしまったウサギのようにビクッと震えた。しかも立ち上がったセドリックがなぜかライラの横に腰を下ろしたので、さらに後退りする。

(ななな、何が起きてるの。団長、正気に戻ってくださーい)

「クイン」
「ひゃい!」

 ぴょんと飛び上がったライラに、セドリックが困ったように微笑んだ。

「怯えないでくれ」
「おおお、怯えてなんていませんが?」

 男の子だし、怖くないしと虚勢を張るけれど、ライラを見るセドリックの目は、明らかにいつもと違う。まさか、何か薬を盛られたのだろうか。いつ? どこで?

「俺はこの上なく正気だからな?」

 失礼なと呆れて首を振るセドリックは、読心術の心得があるらしい。
 どうしたものかと困り果てていると、セドリックはおもむろに眼帯を外した。

「あ……目……」

 眼帯の下にあった醜い傷は消え、晴れた空を映す湖のような目は、両方とも美しく輝いている。

「治ったん、ですね……?」

 震えながら、それでも確信が欲しくて尋ねると、セドリックは目を細めてしっかりと頷いた。

「ええ。あなたのおかげです。ライラ様」
「へっ?」