「あ、ありがとうございます」
完全に子ども扱いだと思わなくもないが、これなら眠れないということはなさそうなので、ありがたく頂く。
「わ、おいしい。団長、これ、今まで飲んだ中で一番おいしいです!」
「そっか。そりゃあよかった」
ふんわりと柔らかい笑顔を向けられ、またライラの息が止まる。心臓がドコドコうるさいが、今ので止まらなかったのがむしろ奇跡だ。
(でも近くで見られる日なんて数えるほどしかないんだから、ここは遠慮なく見ておこう!)
しばらく心地よい沈黙が続いたあと軽い世間話をしたが、セドリックは例の結婚については口にしない。愚痴を言うには物足りない相手なのだろうと落ち込みそうになるが、今はほかの団員はいないのだ。ここで愚痴を言っても誰にもばれないと告げると、セドリックは心底不思議な顔をした。
「愚痴?」
「はい。不満、でもいいですけど」
「なんの?」
「それは、えっと、王女との……」
結婚は嫌でしょうと言うことができず、口の中でもごもごしてしまう。
しかしセドリックは「ああ」とつぶやき、ライラの予想に反し、甘い笑顔を浮かべたので驚いた。
「えっと、団長?」
その笑顔に、(あれ? 縁談はほかの王女のことだったかな?)と混乱する。
父からは一言『お前の結婚相手を決めたぞ』とそっけない文が来ていたから、てっきりそうだと思ってたんだけど……。
(えっ? わたしの早とちり?)
羞恥で青くなったり赤くなったりしていると、セドリックはクスッと笑う。
「ああ。第七王女のライラ様との結婚、ね」
(うっ。この方、こんなに色っぽい人だったかしら)
使用人に向ける笑みではないように感じる。(もしや男色だった?)と、新たな疑惑が湧き、ソファの上で少し後退りする。個人の性癖に口を出す気はないが、実は女性であるライラでは期待に沿えないのだから。
(いやいやいや。違うから。問題はそういうことじゃないから!)



