とはいえライラの料理には特別な力があり、食べた人の気力体力を回復させ健康を保つ。おまけに怪我をしたときも、当人の体力次第とはいえ、通常より早く回復する。
この能力に最初に気づいたとき、ライラは自分の料理をセドリックに日常的に食べさせたいと考えた。キャスリンはそんな主人の願いを叶えるためにクインという架空の男の子を一緒に作り上げてくれ、何かと協力してくれた。
おかげでセドリックのほとんど見えなくなった目も、この二年でかなり回復してきていて、元に戻るまであと一歩というところまで来ていた。医者は彼の驚異的な回復のおかげだと言っていたが、それでいい。
あとはセドリックとキャスリンの恋を成就させるだけと思っていたのだが――。
(まさかクマのような大男バーナビーと相思相愛だったなんて! 全然、まったく、小指の先ほどだって気づかなかったわよぉ)
バーナビーは確かにいい男だ。見た目はクマだけど強いし優しいし、安心してキャスリンを任せられる。
唯一の侍女が自分のそばからいなくなるのはさみしいけれど、いつかはこんな日が来ることは知っていたから。
理想とは違ってしまったけど、彼女が幸せならそれでいいのだ。
しかし、もう一人の幸せになってもらいたい相手については、予定が大幅に狂ってしまった。
どう考えても、セドリックの妻に自分はありえない。
大好きだけど! 大好きだからこそ、わたしじゃだめなのだ。
「クイン、難しい顔をしてどうした? ほら、今日は特別に牛乳も砂糖もたっぷり入れてやったぞ」
なみなみとカフェオレの入った大きなカップを置かれ、考え事に没頭していたライラはハッとして顔を上げた。



