彼の力になるために目の色を変え、かつらをかぶり、胸をぎゅっとつぶし、クインという架空の少年を作り上げた。しかしクインの設定年齢を考えれば、それもそろそろ限界。もともとクインが消える日は近づいていた。
もう少しで準備していた彼への恩返しが叶えば、ここからさよならするつもりだった。
二度とこんな風にそばにいられなくても、王女として遠くに嫁がない限り遠目にだって見ることはできる。セドリックはクイン――いや、ライラにとっては子供のころから英雄で、誰よりも幸せになってほしい人なのだ。
(あなたには、綺麗で優しいお嫁さんがお似合いだもの)
十年前。
ライラは迷い込んだ森で偶然セドリックに助けられた。
ライラを助けるために一角狼と戦って、左目に傷を負ったセドリック。
ライラが誰かも知らなかったのに、偶然見かけたちっぽけな女の子を助けてくれた彼は、血を見て泣きじゃくるライラに「たいしたことはない」と繰り返し、むしろライラに怪我がないか気にしてくれた。
今まで侍女のキャスリンと、十歳まで世話をしてくれた乳母以外に、ライラを心配してくれた人などいなかったのに。
後日。恩人である彼が騎士見習いだと知ったライラは、キャスリンの目を盗んで訓練場をこっそり覗いた。しかし、まだ包帯のとれていないその顔に、腕に、足にショックを受け、やはりひどい傷だったのだと目の前が暗くなり、しばらく罪悪感で動けなくなった。
初めて自分以外のために泣き、真摯に祈った。
結局すぐキャスリン達にはバレてしまったが、母親がライラを生んですぐ亡くなったことで家族からも使用人からも放置され、無気力で幽霊のようだった姫が元気になったと喜んだ彼女は、積極的に協力してくれたのだ。
キャスリンしか知らないライラの能力は料理だった。
しかし使用人のようなその能力は、王族としては恥ずべき力だった。
もう少しで準備していた彼への恩返しが叶えば、ここからさよならするつもりだった。
二度とこんな風にそばにいられなくても、王女として遠くに嫁がない限り遠目にだって見ることはできる。セドリックはクイン――いや、ライラにとっては子供のころから英雄で、誰よりも幸せになってほしい人なのだ。
(あなたには、綺麗で優しいお嫁さんがお似合いだもの)
十年前。
ライラは迷い込んだ森で偶然セドリックに助けられた。
ライラを助けるために一角狼と戦って、左目に傷を負ったセドリック。
ライラが誰かも知らなかったのに、偶然見かけたちっぽけな女の子を助けてくれた彼は、血を見て泣きじゃくるライラに「たいしたことはない」と繰り返し、むしろライラに怪我がないか気にしてくれた。
今まで侍女のキャスリンと、十歳まで世話をしてくれた乳母以外に、ライラを心配してくれた人などいなかったのに。
後日。恩人である彼が騎士見習いだと知ったライラは、キャスリンの目を盗んで訓練場をこっそり覗いた。しかし、まだ包帯のとれていないその顔に、腕に、足にショックを受け、やはりひどい傷だったのだと目の前が暗くなり、しばらく罪悪感で動けなくなった。
初めて自分以外のために泣き、真摯に祈った。
結局すぐキャスリン達にはバレてしまったが、母親がライラを生んですぐ亡くなったことで家族からも使用人からも放置され、無気力で幽霊のようだった姫が元気になったと喜んだ彼女は、積極的に協力してくれたのだ。
キャスリンしか知らないライラの能力は料理だった。
しかし使用人のようなその能力は、王族としては恥ずべき力だった。



