本来休日だったクインに「急に飯の支度をさせて悪かったし」と言ったセドリックは、いいことを思いついたというようにクインを誘うが、少年はうんざりした顔を隠さなかった。

「ええ、今からですか? それってコーヒーですよね? いま夜ですよ?」

 紅茶とワインが好まれるこの国で、セドリックの好みはコーヒーだ。
 実家から通えるにもかかわらず、好き好んで寮暮らしをしているセドリックだが、コーヒーだけは実家から送ってもらっている。

 彼の部屋は寝室と居間の二間になっているのだが、その居間はコーヒーを淹れるための道具などがズラッと並んでおり、手入れも自分でしている徹底ぶり。器にもこだわりがあるらしい。
 酒は付き合い程度にしか飲まないセドリックだが、団員使用人問わず気まぐれにコーヒーをふるまうのも、彼の数少ない趣味の一つだと言えた。

 クインも香りだけならおいしそうだと思うのだが、セドリックのようにブラックでは飲むことができない。何度か無理やり呼ばれて馳走になったことがあるが、夜に飲んだ時は全然眠れなかったことを思い出すと、正直腰が引けてしまう。

(明日は朝から大事が用があるのに)

 しかしセドリックは強引にクインの肩を抱くと、問答無用とばかりに自室の居間へクインを押し込んだ。
 これは諦めて付き合うしかない――――と、クインは遠い目になる。きっと彼は今、誰かに愚痴をこぼしたい気分だろうから。

(どんな美女だって望める国の英雄が、よりにもよってわたしと結婚(・・・・・・)だなんて、愚痴もいいたくなるわよね)