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 碧落騎士団の団員は、そのほとんどが寮暮らしだ。
 王城の中とはいえ、西の森の隅にある古い建物で、広さはあるが設備も古く、利便性も悪い。新緑寮と名前だけは爽やかだが、もともと問題児だらけの騎士団だったため使用人も男だけと決められており、華やかさとは無縁。

 そんな新緑寮の食堂に、なぜかまだ団長であるセドリックがいる。しかも食事が終わった後、そのまま仕事をしているらしい。毎度のこととはいえ、ほかの団員も含め今碧落の騎士団は特別休暇中なのだ。
 大人なのでどこにいようと自由だが、せめて食堂はリラックスする場であってほしい。そう思ってクインは、わざとらしく大げさにため息をついた。

「団長ー。厨房の片付けも終わったから、ここの明かりも消しますよ。仕事なら執務室でしてください」

 そんな、さっさと部屋に戻れという訴えにセドリックは、「クインは冷たいな」と笑った。

 クインは住み込みではなく通いの厨房手伝い人で、自称十六歳の少年だ。
 第七王女の侍女をしているキャスリンの従弟で、二年前からここで働いている。

 短い黒髪に茶色の目で体の線も細く、年齢の割にまだ声変わりも終わっていない子供っぽさだが、その実働き者で手際が良い。彼が来てから食事の満足度が爆上がりし、団員たちからも可愛い弟分として可愛がられていた。
 ドラゴン討伐には同行しなかったが、団で持っていったクイン特製の非常食に助けられたこともあり、団員からは影の貢献者という認識も強かったのだ。

 追い立てられるように立ち上がったセドリックは、ふとクインを振り返った。

「そうだクイン。俺の部屋で茶でも付き合わないか?」