時代くん‼︎


ーーーピロン。
<ミコト>は古い文書を手に入れた。
アイテムゲットでスキルアップ!

「ぬぬぬ…これは鎌倉後期の筆致…力強くて…いい…!」

寝る前の至福の時間ーー。
部屋のベッドでゴロゴロしながら、スマホゲーム《アナヒス》でゲットした古文書に心を奪われる。

《アナヒス》は、中高生に大人気のスマホゲーム《アナザーヒストリーH》の略称。
どんなゲームかっていうと、縄文から平成まで、時代ごとの主人公たちとともに、敵を倒したり、アイテムを揃えたりしながら冒険する神ゲーだ。

各時代のラスボスは、野生動物や盗賊、武士、政治家など、時代ごとにさまざまで…。
ラスボスを倒すことでレベルアップして、新たな時代に進むことができる。
時代順に攻略していくゲームだから「縄文」から始まって、弥生→古墳→飛鳥→奈良→平安→鎌倉…(以下略)と続く…。

私、暁月美琴(あかつき・みこと)は、歴史的な史料(古文書、日記、絵画、出土品などなど)が大好きな人間でございまして…。

(周りからは、歴史アイテムオタクと言われている…)

《アナヒス》の何にハマっているかというと…それは、もう、歴史アイテム集め(言うまでもない)でごじゃります。

私の家は、琴と三味線の販売・修理をする「暁月楽器店」っていう楽器屋さん。
赤ちゃんのときは、琴の弦を貼る<琴柱(ことばしら)>と寝ていたらしい。
琴屋の娘だから「美琴」って名付けるなんて安直な親だぜ…。

で、日本の伝統楽器に囲まれながら育った私だけど、琴や三味線の構造や伝来などをばあちゃんに聞かされているうちに自分でも調べるようになって…。
中2になった今はゲームの中で、4歳から通い詰めた資料館や科学館で得た知識を存分に発揮して歴史アイテム収集に勤しんでいるのですっ。

ーーピロリンッ!
《 古文書を解読!鎌倉くんとともに敵を撃破!HP全回復しますか》
【はい】/【いいえ】

うふふ。
古文書を解読してニヤニヤしながら、【はい】を選択する。

「鎌倉(かまくら)くん」っていうのは、主人公キャラの名前。
《アナヒス》のキャラは、それぞれ時代の名前を名乗っていて、「縄文時代」なら「縄文(じょうもん)くん」、「弥生時代」なら「弥生(やよい)くん」…という感じ。

今は、鎌倉時代を攻略中だから、鎌倉くんと一緒に冒険の旅に出ている。
今日も鎌倉時代の神アイテムの物色に邁進しております!!!(最&高)

伸びをしながら、たまたま時計の針を見ると、夜の22時をちょっと過ぎていた。
明日も学校だしそろそろ寝なきゃかあ…。
ゲームのセーブボタンを押す。

ーーーお知らせーーー
《アップデートしますか》
【はい】/【いいえ】

「…あれ? もうアプデかかるのか、この前したばっかなのに」

【はい】を選択すると「このアップデートには約54分かかります」の文字。

「54分…待ちながらテスト勉強でもするか…」

数学の教科書を開いて、中間テストの範囲を確認する。
数学と理科は、地獄だ…。
歴史を細分化してテストしてくれればいいのに…。

不可能な妄想をしながらいくつか問題を解くと、急激な睡魔に襲われるーー。
スマホ画面に視線を向けると、アプデはあと…「〜〜Loading〜〜(約41分)」の表示。
15分だけ寝よう…。
アラームをセットして、枕に顔を沈め、「埴輪とか、青銅器とか、勾玉とか…歴史的史料に埋もれて、時代くんたちと暮らしてみたいなーー」と呟く。
15分後に鳴ったアラームを無意識に止めて、そのまま深い眠りについてしまったーー。


+++++++++++


ーーコトコトコト。

お鍋が湧く音で目が覚めた。
あ…昨日はアプデ中に寝ちゃったのか…。
朝ごはん食べたら《アナヒス》確認しなきゃ。
寝巻きのまま部屋を出て、洗面所で顔を洗う。

ーースーッ。

顔を洗い終わって、和室の襖を開けるとばあちゃんがいつものように朝ごはんを並べていた。
白米、味噌汁、目玉焼きーー、そして、視界にどこかで見たことのある人…?
いつも通りの朝じゃ…ない!?

「おはよう、美琴さん。朝の一首を…」

袖の長い着物を着た「平安(へいあん)くん」が扇を持って、私に話しかけている…。
艶のある白くて長い髪を下の方で一つにまとめている姿は、美しくて、ま、まぶしい…。
着物のたもとが邪魔にならないようにそっとよける仕草をした後、しゅくしゅくと朝の一首を詠もうと筆を走らせている。
重そうな着物だな…。

そして、平安くんの隣に座っているのは、黒髪で整った顔をした「鎌倉くん」!?
直垂(ひたたれ)という、鎌倉時代の人が着るダボっとした着物姿だ。
平安くんの着物との違いをいうなら、少し動きやすそうな着物って感じかな。

夢か幻か…。
ゲームのやり過ぎて、私にバグが起きたのか…。
ほっぺをツネっても痛い…。
ゆ、夢じゃない…。
ゲームの中の主人公たちがどうして我が家に!

「…えっと、あの…なぜここに…」

私が恐る恐る口を開くと、平安くんがそれに答える。

「美琴さんがぼくたちと暮らしたいと申しておりましたのに…」

「ぼくたち…?」

「昨日、アップデート中に寝落ちしそうになった美琴さんが『時代くんたちと暮らしたいーー』とおっしゃったからこの世に参ったのです」

「そうだぞ、“召喚”しておいてなんだよ。ってかこの世界の服、布の面積が多過ぎないか」

後ろから声をかけてきて、私の肩に手をのせたのは「縄文くん」だ。

「ぎゃあああ」

驚いて、思わず尻餅をつく。
びっくりした…。

縄文くんは「大丈夫か?」と私の顔を覗き込んだ後、ズンズン歩き、平安くんの隣に腰を下ろした。
赤いツンツンした髪に、彫刻のように堀の深い顔、少し日に焼けた肌。
ダボっとした茶色い半袖のワンピースのような服装だ。

「て、 てか、ばあちゃん。 なんで普通にしてるの!」

「にぎやかでいいじゃない。美琴のお友達だろお〜」

「いやいや、友達っていうかーー」

朝っぱらから知らない人たちが自分の家にいるのに全く動じないばあちゃん。
「大人数でのごはんは久しぶりで楽しいねえ」とのんきなものだ。

「ばあちゃん、ありがとな! まあまあ美琴、とりあえず座れよ」

「縄文くんのいう通り。おいしそうな朝食! いただきましょう」

「ちょ、ちょっと」

縄文くんと平安くんは『いただきます』と手を合わせて、朝ごはんを食べ始めた。
朝ごはんどころじゃないのでは…。

「…俺の隣に座れ」

「え…?」

ポンポンっと畳をたたいて私を導く鎌倉くん。
なぜ、そんなに冷静なんですか…。
私は着席して、「はい、一緒に朝ごはん食べましょう❤︎」みたいなキャラじゃないのだが。

まじまじと顔を眺めて、立ち尽くしたまま、考察してしまうーー。
それにしても、3人とも顔整ってるなあ。
《アナヒス》ファンは、主人公キャラを推している人がほとんどだもんな。
この顔面を拝む理由がよくわかる…。
てか、それぞれの格好がゲーム(=時代)の通りで、オタク魂がざわついてきた…。

「早く…」

鎌倉くんの声にびっくりして、心臓が飛び跳ねた。

「は、はいぃ…」

落ち着かないまま鎌倉くんに返事する。
隣に座り、ソワソワしながら箸を持った。

いけない、いけない。
眺めている場合じゃなかった。
でもでもでも、歴史好きとしては3人の服装と持ち物だけでもちょー貴重な考察対象だよ。
しょうがないよね!?
歴史好きにはたまらんのよ!

こんなおかしな状況でも、大好きな歴史を優先しちゃう私…。
そして、ゲームの中の人たちが来ちゃっているこの目の前の現実になんだかワクワクしてしまっている。
アーメン。

とりあえず、《アナヒス》を確認するか…。
ポケットからスマホを取り出した。

ーーピロン。
《アップデート完了》
《転送設定:<プレイヤー:ミコト>の願望により20XX年5月14日、暁月家へ》
《転送人数:3人(縄文、平安、鎌倉)》
《次回追加予定:弥生》

「な、何これ…。てか待って…増えるの?」

どういうこと…?
思わず大きな声を出してしまった。
縄文くん、平安くんが驚いてこちらを見ている。
鎌倉くんは真顔のまま、視線を向けた。

「美琴、どうしたの? 早く食べないと遅刻するよ」

ばあちゃんの声で我にかえる。
やばい、もうこんな時間じゃん。
とにもかくにもさっさと朝ごはんを食べて、支度をして学校に行こう。
今後のことは帰宅してから考えればいい。
今は学校だ。

「考えるな、動け!」と自分に厳しく言い聞かせる。
口の中いっぱいにして、ごはんをごくんと飲み込んだ。

「ご馳走様でした…」

茶碗とお椀を重ねて、台所に持っていく。
思考を巡らせると、すぐに歴史のことに引っ張られてしまうし、ニヤニヤと妄想が止まらなくなってしまう。
考えちゃダメだ。


++++++++++


走って部屋に駆け込み、制服に着替える。
鏡の前に立ち、いつものように前髪で目を隠す。

それにしても3人はゲームの中と変わらないな。
2Dか3Dかの違いだわ…。
縄文くんの狩をしていたであろう肉体は素晴らしいし、背中に槍みたいなの背負ってたよね?
黒曜石でできてんのかな…。
平安くんの着物の生地、美しかった…触りたいいいいい!

おっといけない。
また思考が「時代くん」たちに持ってかれそうだ…。
忘れ物をしないように、バックの中を確認して部屋を出た。

「美琴さん、学校ですか。この時代の和歌はどんなに雅か…さて、私も学校に…」

「この時代には怪しいやつもいるっていうし、登下校は護衛するぞ!」

「ちょ、ちょっと待って。 学校についてくる気なの? 」

「はい、一緒に暮らすんですから」と微笑む平安くん。
「ずっと一緒だな!」とニカっと笑う縄文くん。

「学校は…だ、ダメに決まってる」

学校にまでついて来られたら、前髪伸ばしたインキャの空気みたいな私が目立って困る…!
友達にも先生にもなんて説明していいかわからないし…。 
それに、この状況自体まだ整理できていない。
「ごめん」といって、部屋の前にいた平安くんと縄文くんを振り払う。
玄関までくると、そこには鎌倉くんがいてーー。

「……」

「か、鎌倉くん、ごめん…学校に行かなきゃで…。通してもらえると…」

「……」

黙って立っている鎌倉くんに、早口で声をかけた。
何も言わずにその場を動こうとしない鎌倉くん。
無言かいな…!
そんな鎌倉くんを放置して、脇を通り抜け、ローファーを履く。

「(ちっ)俺に会いたかったんじゃないのかよ」

「え? なんて? ち、遅刻する…」

鎌倉くんの小さな声が聞き取れず、聞き返して振り向くと、3人が並んで立っていたーー。

「「「一緒に学校にいく!」」」

3人が声を揃えて私に抗議する。
もう… めちゃくちゃじゃないか…。
時代くんたちが学校に行くと言っている…。
だ、誰か助けてえええええ。


❤︎❤︎❤︎<ミコト>のひそひそ話❤︎❤︎❤︎
時代の流れを補足すると…こんな感じ!※旧石器時代と令和時代を除いています。★は1話で出演した時代くん
縄文時代(★)→弥生時代→古墳時代→飛鳥時代→奈良時代→平安時代(★)→鎌倉時代(★)→南北朝時代→室町時代(南北朝時代、戦国時代を含む)→安土桃山時代(ミコトが攻略中)→江戸時代→明治時代→大正時代→昭和時代→平成時代