暗闇の中で、もう一度高瀬くんと目が合う。
私が小さく瞬きで頷くと、張り詰めていた糸が切れたみたいに、痛いほど強く抱きしめられた。
抱きしめる力加減がまだよく分からない、十七歳の高校生。
自分より八つも年下の男の子と過ごした三ヶ月は、私の人生で一番濃くて、温かい時間だった。
私と同じシャンプーの香りが、高瀬くんの髪からふわりと漂う。
そこに、彼だけの少し熱い体温の匂いが混ざり合っていた。
ドクン、ドクン、と彼の規則正しい心音が鼓膜に響く。
高瀬くんが確かにここにいるという証拠に、私自身が溶けて混ざり合っていくような錯覚に陥った。
「高瀬くんが優勝するところを見たら、私、絶対泣いちゃうなあ……」
「それはもう、鼻水垂らして大号泣だろ」
「否定はしないけど!」
「しないんだ」
耳元で、高瀬くんの優しく笑う吐息がくすぐったく揺れる。
「だって、私の推しの晴れ舞台だもの。ずっと、ずっと、見守ってるよ」
「……なんで」
高瀬くんが、ひどく苦しそうに呟いた。
「なんでそんなに、俺のことが好きなんだよ。……俺まで」
そこまで言って、高瀬くんの言葉は途切れた。
私が彼の人差し指をそっと取り、彼自身の唇にそっと触れさせたから。
「ストップ。……それ以上は、言わないで。……お願い」
願った私の声は、ひどく震えていた。
今にも、涙が堰を切って溢れ出しそうだった。
高瀬くんは私の気持ちを汲んでくれたのか、それ以上は何も言わなかった。
私も、言葉を飲み込んだ。
痛いほど抱きしめられた身体から伝わる熱を、一生忘れないように、消えないようにと心の奥深くに刻みつける。
高瀬くんが、あちらに帰っても少しだけでいいから私を覚えていてくれますように。
高瀬くんとの暮らしを、私がずっと、忘れずにいられますように。
明日にはもうここにいない彼と、本当の神様がくれた最後の時間を、私たちは確かに感じ合っていた。
