――どれくらいの時間が経ったのだろう。
「患者様が目を覚まされました」
看護師さんが声をかけてくれて、美奈子さんと喜び合った。
「それで、優那さんという方を呼ばれているのですが……」
「優那は私です!」
意識が戻ってすぐに私のことを思い出してくれるなんてと涙ぐむ。
「ただ、面会は親族の方のみと決められていまして……」
「そんな……!」
申し訳なさそうに言う看護師さんに私は言葉を失った。
すると美奈子さんが横から声をかける。
「彼女は婚約者なんです! 親族同然ですよね?」
驚いて彼女を見ると、「お兄ちゃんはそのつもりよ」とささやいて、話を合わせるようにというように目配せしてきた。
「上の者に聞いてきますね」
「よろしくお願いします!」
無事許可が下りて、美奈子さんと一緒に私も面会できることになった。
マスクをして手を消毒して、集中治療室に入る。
翔真さんはモニターや点滴に囲まれたベッドに寝ていた。
血の気の引いた顔でぼんやり目を開いている感じだった。
「翔真さん!」
「お兄ちゃん!」
私たちが近寄ると、彼は緩慢に首を動かして、微笑んだ。
「優那が無事でよかった……」
かすれた声でそんなことを言われて、涙腺が緩んだ。気も緩んで、しゃがみこんでしまう。
「翔真さんこそ……本当に無事で……よかった……」
やっとのことでそう言った。
軽くうなずいた彼は表情をひきしめた。強い視線で私を見て言う。
「優那、スペインへ行け」
「え?」
「出発は今日の午後だろ? 急がないと間に合わなくなる」
時間の感覚もなにもかも吹っ飛んでいた。
夢だったスペインのことも。
(だって、翔真さんがいなければ……)
彼のことがなにより大事になっていた。こんな状態の彼を残していくなんて考えられなかった。
私の躊躇を見て、翔真さんは再度促す。
「優那、早く行くんだ。俺は生きてる。大丈夫だ」
「でも……」
「君の夢をつぶす原因になりたくない!」
激した様子でそう言ったあと、翔真さんは、ハァハァと肩で息をした。
自分のことより先に私の将来を考えてくれている姿に胸が熱くなる。まぎれもない愛を感じて。
(離れたくない……。でも、彼の想いも無駄にしたくない……)
涙を流しながら、私は迷ってなにも言えないでいた。
すると、黙って聞いていた美奈子さんが口を開いた。
「優那さん、行ってください。お兄ちゃんはちゃんと私が見てるし、様子を連絡しますから」
「美奈子さん……」
「そうだ。安心して行ってこい」
優しい二人からたたみかけられて心が決まった。
私は翔真さんを見つめて、声を絞り出す。
「……わかりました。行ってきます!」
安堵したように顔をほころばせて、彼は手を差しだした。
その手を握り、頬を摺り寄せる。
「翔真さん、がんばってきますね」
「あぁ、応援してる」
彼の顔を目に焼き付けてから、私は手を放した。
空港に行くなら、そろそろタイムリミットだった。
二人に別れを告げて、私は荷物を取りに帰宅した。
重いスーツケースを下げて、走る。
あの電車に乗らなきゃ!
間に合わなくても、ここには送ってくれる翔真さんはいない。
今度は電車に間に合って、無事私はスペインへと旅立った。
「患者様が目を覚まされました」
看護師さんが声をかけてくれて、美奈子さんと喜び合った。
「それで、優那さんという方を呼ばれているのですが……」
「優那は私です!」
意識が戻ってすぐに私のことを思い出してくれるなんてと涙ぐむ。
「ただ、面会は親族の方のみと決められていまして……」
「そんな……!」
申し訳なさそうに言う看護師さんに私は言葉を失った。
すると美奈子さんが横から声をかける。
「彼女は婚約者なんです! 親族同然ですよね?」
驚いて彼女を見ると、「お兄ちゃんはそのつもりよ」とささやいて、話を合わせるようにというように目配せしてきた。
「上の者に聞いてきますね」
「よろしくお願いします!」
無事許可が下りて、美奈子さんと一緒に私も面会できることになった。
マスクをして手を消毒して、集中治療室に入る。
翔真さんはモニターや点滴に囲まれたベッドに寝ていた。
血の気の引いた顔でぼんやり目を開いている感じだった。
「翔真さん!」
「お兄ちゃん!」
私たちが近寄ると、彼は緩慢に首を動かして、微笑んだ。
「優那が無事でよかった……」
かすれた声でそんなことを言われて、涙腺が緩んだ。気も緩んで、しゃがみこんでしまう。
「翔真さんこそ……本当に無事で……よかった……」
やっとのことでそう言った。
軽くうなずいた彼は表情をひきしめた。強い視線で私を見て言う。
「優那、スペインへ行け」
「え?」
「出発は今日の午後だろ? 急がないと間に合わなくなる」
時間の感覚もなにもかも吹っ飛んでいた。
夢だったスペインのことも。
(だって、翔真さんがいなければ……)
彼のことがなにより大事になっていた。こんな状態の彼を残していくなんて考えられなかった。
私の躊躇を見て、翔真さんは再度促す。
「優那、早く行くんだ。俺は生きてる。大丈夫だ」
「でも……」
「君の夢をつぶす原因になりたくない!」
激した様子でそう言ったあと、翔真さんは、ハァハァと肩で息をした。
自分のことより先に私の将来を考えてくれている姿に胸が熱くなる。まぎれもない愛を感じて。
(離れたくない……。でも、彼の想いも無駄にしたくない……)
涙を流しながら、私は迷ってなにも言えないでいた。
すると、黙って聞いていた美奈子さんが口を開いた。
「優那さん、行ってください。お兄ちゃんはちゃんと私が見てるし、様子を連絡しますから」
「美奈子さん……」
「そうだ。安心して行ってこい」
優しい二人からたたみかけられて心が決まった。
私は翔真さんを見つめて、声を絞り出す。
「……わかりました。行ってきます!」
安堵したように顔をほころばせて、彼は手を差しだした。
その手を握り、頬を摺り寄せる。
「翔真さん、がんばってきますね」
「あぁ、応援してる」
彼の顔を目に焼き付けてから、私は手を放した。
空港に行くなら、そろそろタイムリミットだった。
二人に別れを告げて、私は荷物を取りに帰宅した。
重いスーツケースを下げて、走る。
あの電車に乗らなきゃ!
間に合わなくても、ここには送ってくれる翔真さんはいない。
今度は電車に間に合って、無事私はスペインへと旅立った。



