運命には間に合いますか?

「これで私の講義は終わりです。本来なら二週に渡ってもっとじっくり講義するはずだったのですが、来週仕事が立て込むことになって、今週だけで凝縮して詰め込んでしまって、申し訳ありません。その代わり、質問があれば気軽に連絡してください」
 内装研修の最終日の金曜日、みっちり講義してくれたあと、守谷さんはそう締めくくった。
 講義のときの彼は丁寧語でしゃべり、スマートな印象だ。
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
 お礼を言った私の隣で、柴崎が片手を上げた。
「さっそく質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「守谷さんは大橋さんとどういう関係なんですか?」
「は? なに言ってるのよ!」
 柴崎が変なことを言いだして、私は慌てて彼を咎める。
(質問ってそういうことじゃないでしょう?)
 笑って流すかと思った守谷さんは意外にも茶化すことなく柴崎をじっと見た。観察するかのように。そして、大真面目な顔で言った。
「関係と言われると今はまだ知り合いかな。絶賛口説き中の」
 口調がプライベートのものに戻っている。
 それはいいけど、柴崎に言う必要ある?
 今度は守谷さんに抗議の声をあげた。
「守谷さん!」
 そんな私と守谷さんを交互に見て、柴崎は笑った。
 彼が私の前でそんな表情をするのはめずらしい。
「それなら、俺にもチャンスがあるってわけだ」
「チャンス? なんの?」
 首をかしげた私に向き直った柴崎は言う。
「大橋、付き合ってくれ」
「えぇっ? どうして? 私を嫌ってたんでしょう?」
 話の流れから今度は交際の付き合うだってことはわかったけど、思ってもみなかった柴崎の言葉に驚いて目を見開いた。
「違う。学生のころからずっと好きだった」
「ウソでしょう?」
 今までの態度のどこに好きの要素があったのだろうと疑問に思う。
 しかも、守谷さんの前で告白するなんて、とうろたえた。