運命には間に合いますか?

 その晩、いつものように電話をかけてきた守谷さんは普段と様子が違った。
『柴崎くんになにを言われてたんだ?』
 冒頭から硬い声でそんなことを聞かれて、きょとんとする。
「別になにも……?」
 柴崎と話しているのを見られたのだろう。
『なにもないって雰囲気じゃなかっただろう?』
 端からはそう見えたのかもしれないが、本当に大したことを聞かれたわけではないので、私はちょっとムッとして答えた。
「本当になにも言われてません!」
『……悪かった。君は俺の彼女でもなんでもないのにな。俺にはなんの権利もない』
 沈んだ声でそう言われて、私はなにも言えなかった。
 答えを要してなかったのか、守谷さんは質問を続ける。
『柴崎くんとは大学の同級生なんだよな? 親しいのか?』
 柴崎にも同じようなことを聞かれたなと思いつつ、苦笑して答えた。
「同級生でしたが、どちらかというと仲悪いです。っていうか、柴崎がやたらとつっかかってくるので、嫌われてるんだと思います」
『なるほど、そうか。仲が悪いか』
 急に彼の声が明るくなって、私は首をかしげた。
 そして、ふと思い当たる。
(もしかして嫉妬してるの?)
 守谷さんのように素敵な人が、柴崎に嫉妬する必要ないのにとおかしくなった。
 機嫌を直した守谷さんと少し話して、おやすみなさいと電話を切る。
 まだ出会って一週間も経っていないのに、毎日のように顔を合わせているからか、昔からこうやって電話をしていたような馴染み感があった。