再会の衝撃。
 検査の緊張。
 未来への不安。

 全てが混ざり合って、息が詰まる。

「検査は45分以内に完了させます。延長は基本不可です」

 蒼志の声は、業務的だった。
 だが、その言葉の端に、僅かな揺らぎがあったような気がした。

「……お願いします」

 芹葉は、台車のハンドルを握り直した。
 
 手のひらが汗ばんでいる。
 この花が通るかどうか。
 それだけじゃない。

 この四十五分間で、自分自身が通れるかどうか——それが試される。

 
 検査台の上に、切花の束が並べられる。
 蒼志は無言で手袋を締め直し、ピンセットを手に取った。
 その動作に、芹葉は見覚えがあった。
 
 三年前、研修先で彼が標本を扱っていた時と、全く同じ手の動き。
 あの頃の記憶が、ふいに蘇る。

——研修先の検査室で、病害反応のある花を前に彼が淡々と説明していた姿。

 その時の落ち着いた声と、確かな手の動き。
 ただそれだけの記憶が、今と重なって蘇る。
 業務に向き合う姿勢は、あの頃と変わらない。
 芹葉は胸の奥に、静かな熱を覚えた。

——あの夜、もう少し勇気があれば。
——あと一言、何か言えていたら。

 そんな“もしも”が、今も胸の奥に残っている。