電車のドアは閉まったまま。ドアの方を眺める私を前の男性がチラッと見て言う。
「そっち行ってもいいですか?」
彼が、私のイスの隣のスペースを指さす。
「あ、はい」
私が言うと、彼はニコって笑って、私の隣に移動してきた。
「空、綺麗ですねえ」
彼が、窓の外を眺める。
「あ、本当だ」
窓の外はいつの間にか雨が上がっていた。空がピンク色に染まる。夕方と、夜が混じりあったような、幻想的な空の色。
「綺麗……」
その空は、思わず声が出るほど美しかった。いつもこの時間帯は家にいて、こんなにじっくりと空を見上げることもなかった。
「この時間帯のこと、なんて呼ぶか知ってますか?」
彼が私を見る。離れてるときには気づかなかったけど、髪色やその服装と反して、その目は穏やかで、その声は落ち着いていた。
「夕方と夜の間のこの時間?」
「そう」彼が頷く。なんだか大人びていて学校の先生の話し方もこんな感じだった、と思い出す。「マジックアワーって言うらしいですよ」
「マジックアワー……」
「太陽が地平線に沈む直前のこの一瞬、空がピンクみたいな、紫みたいな幻想的な色になるでしょう。空が魔法のように綺麗になるから、マジックアワーと呼ぶらしいです。マジックアワーは、数分間だけしかないんです。そして、数日に一回しか見れない」
「へえ」
たまにしか見られない空を、見ることができた。電車が止まらなかったら、見ることができなかった。
「俺、こういう時間好きですよ。非日常みたいな。電車に閉じ込められるなんてそうそうないし。『外出ないでください』『動くまで待ってください』って言われるとなんかこの時間だけ、何もしないことを誰かに許されているみたいな感じしませんか?」
「そっち行ってもいいですか?」
彼が、私のイスの隣のスペースを指さす。
「あ、はい」
私が言うと、彼はニコって笑って、私の隣に移動してきた。
「空、綺麗ですねえ」
彼が、窓の外を眺める。
「あ、本当だ」
窓の外はいつの間にか雨が上がっていた。空がピンク色に染まる。夕方と、夜が混じりあったような、幻想的な空の色。
「綺麗……」
その空は、思わず声が出るほど美しかった。いつもこの時間帯は家にいて、こんなにじっくりと空を見上げることもなかった。
「この時間帯のこと、なんて呼ぶか知ってますか?」
彼が私を見る。離れてるときには気づかなかったけど、髪色やその服装と反して、その目は穏やかで、その声は落ち着いていた。
「夕方と夜の間のこの時間?」
「そう」彼が頷く。なんだか大人びていて学校の先生の話し方もこんな感じだった、と思い出す。「マジックアワーって言うらしいですよ」
「マジックアワー……」
「太陽が地平線に沈む直前のこの一瞬、空がピンクみたいな、紫みたいな幻想的な色になるでしょう。空が魔法のように綺麗になるから、マジックアワーと呼ぶらしいです。マジックアワーは、数分間だけしかないんです。そして、数日に一回しか見れない」
「へえ」
たまにしか見られない空を、見ることができた。電車が止まらなかったら、見ることができなかった。
「俺、こういう時間好きですよ。非日常みたいな。電車に閉じ込められるなんてそうそうないし。『外出ないでください』『動くまで待ってください』って言われるとなんかこの時間だけ、何もしないことを誰かに許されているみたいな感じしませんか?」



