マジックアワー

  するとガタン、って電車が揺れる。ゆっくりと動き出す電車。窓の外の景色がゆっくり流れていく。
  「お」
  2人同時に声を漏らす。
  それから、車内アナウンスが流れる。
  『皆様にはご不便をおかけしており大変申し訳ございません。ただ今安全の確認が取れたため、この電車は運転を再開いたします——』
  2人で電車に揺られる。
  『次は、南白駅、南白駅——』
  「よかったね」
  成瀬が私を見る。
  私は頷く。でも正直私は、少しかなしい。さっきまであれだけ、早く帰りたいと思っていたのに、今は、もう少し長くこの人と一緒にいたいと思っていた。まだ帰りたくない。このまま電車が、駅に着かなければいいのに。
  夕方と夜の間の、あの時間の名前を成瀬は教えてくれた。今まで意味をなさなかったその時間がこれからは特別になる。それから成瀬は日常をほんのちょっと変えるきっかけを教えてくれた。
  私はまた、この人に会いたい。