マジックアワー

  「私、このまま電車から出られなかったら後悔すること、見つけました」
  「お、何?」
  「ひとつ目は、お母さんにもっとありがとうを言っておけばよかった」
  「おー、親孝行ね」
  「二つ目は、お金をもっと使う!」
  「お?」
  「なんか私漠然と将来が不安で、とにかくお金を貯めなきゃと思って、いろいろ我慢してたんだけど」
  「おお、えらいな」
  「でも、もし、もう電車から出られないとしたら、明日世界が終わるとしたら、もっといろんなものを買って、見ておけば良かったなって後悔すると思うんです」
  「そっか、じゃあ、この電車が動いたら、ひとつ買いたいものを買ってみるっていうのはどう?」
  成瀬が言う。
  「いつもは勿体ないと思って買わないものを、ひとつ買ってみる。普段の自分じゃ買わないと思うものを買ってみる」
  成瀬が小指をぴんって出す。
  「俺と、約束」
  その小指に、自分の小指を絡める。
  「約束!」
  私が言うと、成瀬がニコって笑った。