しばらくすると、この閑散とした車内に、男の人が乗り込んで来た。白Tに両膝に穴が空いたジーンズというラフな出立ち。髪も明るいし、なんかチャラい。運転再開の見込みのない各駅停車にわざわざ乗ってくる人なんているんだ、と思った。どの口が言ってんのって感じだけど。その男の人は、私の真正面の席に座った。膝の穴がぱっくりと開いて、膝小僧が丸見え。

　 数分後、電車は動き出した。家の最寄りまであと5駅。すると、駅を出発した電車はまもなく速度を緩め、やがて停車した。あれ？と思って顔を上げて窓の外を見る。やっぱりまだ次の駅には着いていない。

　 「お客様に再度ご案内申し上げます。前方の踏切での信号機トラブルにより、当列車は駅間で停車しております。安全確認が取れ次第、運転を再開いたしますので、このまま車内でお待ちください＿＿」

　 閑散とした車内にアナウンスが響き渡る。動き出したはずの電車はあろうことか、駅と駅の間で止まってしまった。立ち往生ってやつ。電車のドアは閉まったままで開かない。降りたくなかったはずなのに、降りるなと言われると、なんだかとてつもなく降りたくなってきた。やっぱり前の駅でさっさと降りときゃよかったのかも。呆然と、自分の前の空間を眺める。

　 ふと、前に座っていた男の人が顔を上げ、ぱちん、と目が合った。くりくりの二重。するとその人はくしゃって笑った。