マジックアワー

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  平日の夜。大学近くの居酒屋。瞬の正面には美優が座り、隣に勇人が座っていた。
  「煙草一本ちょうだい」
  美優が瞬に言う。
  「ん」
  と、瞬がタバコの蓋を開けて、美優の方に差し出す。美優が一本摘んで取り出す。
  「火ちょうだい」
  「ん」
  瞬がライターを渡す。美優がそれを受け取って、タバコに火をつけて咥えると、タバコの箱をぐしゃっと握り潰す。
  「も〜!瞬、久しぶりに飲み会来たと思ったらずっと上の空で美優つまんない。イケメンが上の空だとつまんない!」
  「最近ずっとこうなのこの人。なんか悩みでもあんだべ、お前」
  勇人が言う。
  「ねぇ、なんか良いバイト知らない?」
  タバコを灰皿に押し付けながら、瞬が言うと、勇人が言う。
  「バイトぉ?そりゃあ、医大生・高時給と言ったら家庭教師だろ。金髪だろうが裏口だろうが落単しようがしまいが腐っても医大生!」
  「時給いくら?」
  「俺のとこは3,000円」
  幹事が電卓で会費の計算をしていた電卓を奪って、打ち込まれていた金額をクリアする。
  「おいぃ!」
  瞬は幹事の悲痛な叫びには耳を貸さず、金額を打ち込む。
  「だめだ、足りない」
  電卓の数字を見つめ、瞬が頭を抱える。
  「ハァ?」
  勇人が目を丸くする。その金額で足りないって、お前どんな感覚してんだよ、といいだけだった。幹事が電卓を奪う。
  「いいバイトあるよん」美優が言う。
  「何?教えて」
  「アフターバーのバイト」
  「あふたーばー?何それ?」勇人が言う。
  「六本木にあるバー。顔選で基準高いけど、瞬くんならいけると思う」
  「バー?水商売じゃんか」
  勇人が言うと、美優が、チッと舌打ちをして、勇人を睨む。勇人は縮こまった。
  「いくら?時給?」
  「歩合込みで5,000円」
  「やる」
  瞬の隣で勇人が「えぇ……」と声を漏らした。