“ねえ、わたし、いつか土に入るってほんと?”

“うん、ほんとだよ。お葬式をするの”

小さい頃、母と会話をしていたら、お葬式の話になった。

眠りにつく時、母はいつもわたしの隣で一緒に寝てくれた。

“骨になって、土に入るの?”

“うん。でもお母さんは、土に入りたくないかなあ”

“えー、なんで?”

“だって、何年も骨のまま家族を待ち続けるの、嫌じゃん?悲しいよ。それに、私には貴方しかいないし”

あの時母は、《私には貴方しかいない》と言った。

おばあちゃんもおじいちゃんも交通事故で若くしていなくなり、お父さんには別れを告げられて。

母は泣く泣くシングルマザーになってしまった、らしい。

“ねえ、もしも私がいなくなっちゃったらさ、私の骨を粉々に砕いて、海にばらまいてくれない?”

“ええ、なんで?ヤダ”

母は、どこぞの魚のエサになりたいと言っていた。今思えば、母は周りとはどこか違う変わった人だった。

わたしが毎日寝室で過ごしていたのを虐待と呼ぶのかは知らないけれど、わたしの周りの子はみんな、家族の愛にあふれた温かいリビングで過ごしていた。

“お母さんね、早く魚のエサになりたいのよ。”

私は土には還りたくない。だから、魚のエサになって眠りたい。

お前が生まれて来てしまったから、私は自分の人生を後回しにしてきたんだよ。

もう、魚のエサになれていたかもしれないのに。貴方のせいで。


あんなにも残酷なお母さんの発言は、何も聞こえなかった。わからなかった。

そんなフリをした。