たった100秒間の運命

その日の夜。8時をまわったオフィスで、私は残業をしていた。
残る光はぽつりぽつりと一定間隔でそのほとんどが男性社員。

『仕事の割り振りは調整してみせますよ』と格好つけて言ったものの、女性には融通の利かないことが多い。
だからと言って女性の都合で乱れた業務割り振りを男性社員に振るのも嫌な顔をされることが多くて、自分でやった方がいいかと思ってしまう。

結婚。恋愛。男女。
疲れてきた脳内の端に、苦いものが揺れていく。

自立した女性としてひとりで立つ姿は、どうして少数派なんだろうか。
そんな微かな違和感が、秋の風のように弱いざわめきとして心に残っていた。

「高坂さん、最近残業多くない?大丈夫?」
企画部部長の気遣う声。

周りから見れば、優しい言葉のはずだ。
だけど、低く落ち着いた男性の声は私の体を強く固くする。

「私は大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
強めの声は、夜の穏やかなオフィスの空気を、ピシッと切り裂いた。

部長は一瞬だけ眉をひそめ、気まずそうに去っていく。

「高坂さん、仕事できるからって部長にあの態度はないよなあ」
「男嫌いって噂もあるじゃん。結婚してないし訳ありなんじゃない」

若手の男性がひそひそと話す声に聞こえないふりをする。

男性が苦手なわけじゃない。
ただ、社会で自立した女性として男性と肩を並べるには、男性よりも意識的に強くいないといけない。
その難しさは、社会人になって、嫌というほど学んできた。

私は居心地の悪くなったオフィスに小さくため息をついて、キーボードを叩く指を止めた。