たった100秒間の運命

憩くんが海外に行ったあの日から、もう一年以上が過ぎていた。

暦上はもう秋だというのに、まだまだ熱い太陽に眉をしかめ、私はアイスコーヒーを片手に出社する。
揺れる車内でスマホを見ると、大学サークル時代のグループメッセージが朝から賑わっていた。

〈ねぇ今週土曜、ランチどう?久しぶりに集まろうよ〜〉
〈賛成!うちの子も少しだけなら連れて行けるかも〉

メッセージをスクロールしながら、私はアイスコーヒーに口をつけた。

……また、同じ話題になるんだろうな。

もちろん、みんなのことは変わらず大好きだ。
結婚して、子どもができて、違うライフステージにいる彼女たちの幸せは素直に喜べる。

それでもやっぱり話が合わないことはある。
好きと、居心地がいいことは、完全に同義であるとは限らないと最近の私は思う。

〈清花も来れる?最近会えてないし!〉
〈分かる!清花の話も聞きたいよね!〉

ありがたいメッセージを見て微笑みながらも、私はスマホのキーボードに指を添えた。

〈ごめん、今週はやめとく!また落ち着いたら誘うよ〉

電車の揺れに合わせて、送信ボタンを軽く押した。

決して嫌いになったわけじゃない。
でも、彼女たちの話題に、自分だけが毎回ぽつんと取り残される感覚があって。
結婚していない人への優しい気遣いが、逆に刺さることもあった。
何より、予定のたびに自分がほんの少しずつ消耗していくと分かってしまったから。

もう……無理に合わせなくていいよね。

すぐに既読がつき返信が届く。

〈了解!また今度ゆっくり話そ〜♡〉

あっさりした返事に、笑いが漏れた。
これで誘われなくなる関係ならもうそれでいいのかもしれない。
そんなふうに割り切れるようになったのは、私の大きな変化だと思う。

無理に同じ時間を過ごし続けていたら、それこそ彼女たちのことを嫌いになってしまう瞬間がきていたかもしれない。
無理をしないということは、時に、自分自身を大切にすることになるのだと、そう実感していた。