たった100秒間の運命

翌朝。
目覚ましが鳴るより早く目が覚めた私は、起き上がることもできず呆然としていた。

眠る直前まで隣にいたはずの彼はその場にはおらず、自宅へ戻ったようだった。

……やってしまった。

見慣れた天井を見つめながら、両手で顔を覆うと、昨夜のことが断片的に浮かんで、胸がぎゅうっとなる。

憩くんに頭を預けて泣いてしまったこと。
距離が近くなったこと。
夜を一緒に過ごしてしまったこと。

いやいやいや、気まずすぎる。
せっかく大切な存在を見つけたと思ったのに、最悪だ。

憩くんは優しいから昨日は受け止めてくれたかもしれないけれど、こんな女めんどくさすぎるでしょ。

冷静な頭では後悔しか浮かばなくて、頭を抱えているうちに目覚まし時計のベルがなった。

心ここにあらずでもルーティーンワークは行えるようで淡々と朝の準備をして、私は自然とコンビニへと向かっていた。
けれど、コンビニが見えたところでその足は不自然に止まる。

やっぱり気まずい……。
でも、だからといって今日コンビニに行かないのもすっごく意識しているみたいで嫌だし。
今日行かなかったことで、朝の癒しの時間を失うもの悔しい。

いつも通りにしたら、大丈夫かもしれないし。

そう覚悟を決めて、私はコンビニの自動ドアを開くことにした。
いつもの香りが漂う中、コーヒーマシンの前に彼はいた。

「おはよ〜」
憩くんは、いつもの声と、いつもより少し眠そうな笑顔で振り返った。

「お、おはよう」
いつも通りを装うけれど、こちらは少し不自然な挨拶になってしまう。
けれど、目の前であくびをする彼は本当に何も気にしていないようで、私は拍子抜けしてしまった。

自分の分のコーヒーを買って戻ってくると、イートインスペースに座って彼は待っていた。

「本格的に寒くなってきたよね」
「そうだよね。もうしばらくはホットかなあ」

あまりにもいつも通りすぎる彼に、私の方も気にしすぎだったと落ち着いてきて会話を続ける。
いつも通りを取り戻してホッとした私は、ボタンを押した。
コーヒーが抽出されたのを見つめていると、彼は後ろから柔らかな声をかける。

「今日は来ないと思った」

まさかのセリフに思わず咳き込む私。
その様子に、憩くんはおかしそうに笑って隣に立った。

「っ……なんで」
「いや、なんとなく。昨日、いろいろあったし」
「来るよ、普通に」

気にしていないことにしたくてそういうけれど、顔は一気に熱くなる。
憩くんはそんな私を見て、ふっと笑った。

「来てくれてよかった。俺、清花さんとのこの時間、気に入ってたから」

同じことを思っていた。
いつもよりも数段か優しく見える瞳に、なんだかドキドキしてしまう。

コーヒーの出来上がりの音が手助けをしてくれて、その空気を抜け出すことができた。

「今日は外出るの?」
コンビニの外へ出ながら尋ねると、憩くんは「あぁ」と自分の服を見下ろす。

いつものスウェット姿ではなく、コートを羽織って綺麗めなパンツを履いている。

「そう、だから駅まで一緒に行こ」
「うん」

――変わらない。
それが心の底から嬉しかった。

昨日の出来事が、何かを壊すどころか、むしろ少しだけ強く繋いだような気さえして。