たった100秒間の運命

憩くんにおんぶされて帰宅したあと、靴を脱いだだけで力が抜けてそのまま玄関に座り込んだ。

あー疲れた……。このままここで寝てしまいたい。

そんな怠惰な感情を抱きつつ、ほんの少しだけ残ったしっかり者の理性が口をひらく。

「ありがとう。迷惑かけてごめんね」

そのままひらひらと手を振る私を覗き込むように、彼は目の前にしゃがみ込んだ。
急に近くなる距離に思わず胸が揺さぶられる。

「もう……。一瞬上がってもいい?」
「え?」

私の様子に呆れた彼は、帰ることなく、私をもう一度抱えて、部屋を進んだ。

「あの……散らかってるから」
男性を家に上げるのなんて、本当に久しぶりだった。
急に、利便性は高いけれど生活感に溢れる自分の部屋が恥ずかしくなる。

いつもの憩くんなら特に気にしていなかったかもしれないけれど、なんとなく胸がざわつくのは、おんぶをしてくれた憩くんにほんの少し男らしさを感じたからかもしれない。

憩くんは特にきょろきょろする様子もなく、私をソファに下ろした。

「ごめん、何回も迷惑かけて……」
「全然。運動不足回避したし?」

いつも通りのゆるやかでちょっとズレた回答に、なぜかホッとする。

「何か飲んで行って。紅茶とかあるよ」
「え、いいよ。疲れてるのに」
「靴脱いだので楽になったから。私も飲みたいし」

強引に言うと、憩くんは頷いて一緒に紅茶のパックを眺めにキッチンへときた。
隣に並んでいくつかの茶葉を見て笑い合う。
私はジャスミンティー、憩くんはローズヒップティーを選んだ。

「美味しい」
「よかった」

嬉しそうに微笑む憩くんの隣に座り直して湯気の立つカップを包むと、全身の力が少しずつ戻っていく気がした。