たった100秒間の運命

最寄り駅で降りて、すぐ近くの公園のベンチに腰を下ろすと、全身から力が抜けていく。

幸せな日なのに。
大好きな友達たちに会うのに。
こんなにも疲れたと思ってしまうのは、私が悪いのだろうか。

いや、少数派だし、みんなが悪いわけがないんだけど。
無意味な問答に思わずため息を着いた時、ふいに影が落ちた。

「お姫様ご帰宅?」

いつもの、少し眠たげな声。
顔を上げると、タブレットを片手に持った憩が立っていた。

突然のことに驚いて、だらしなくベンチに持たれていたまま目をぱちくりとさせる。
すぐに自分の体勢に気づいて慌てて体を起こすと、足首がまた痛んだ。

「どうしたの?」
一瞬の表情の歪みを見逃さなかった憩くんの優しい声。

その問いが、やさしすぎて。
笑って返そうとしたのに、声がほんの少し震えた。

「靴擦れがね。痛くて」
「そっか」

それ以上何も聞かず、憩くんは隣に座って、タブレットを見せてくれた。

「見て。今日の作品」
覗き込むと、そこには水彩タッチの風景画が描かれている。
中央に飛ぶ鳥が気持ちよさそうで、自由で、憩くんみたいだった。

「素敵な絵」
まぶたが熱くなるのを隠すように、私は笑った。

「なんか、私、情けないね。靴擦れ程度で」
「程度じゃないよ。痛いもんは痛いでしょ」
憩くんは立ち上がり、私の前にしゃがみ込んだ。

「よし、じゃあ乗って」
「……え?」

突然の言葉に驚いていた。
驚いている間に、憩くんは待ちくたびれたように振り返る。

「おんぶ。歩くのしんどいでしょ」
「いや、そこまでは……」

「清花さん、今日は頼って」
名前を呼ぶ声が、驚くほどやさしい。

こんな素敵な絵を描く人は、やっぱりどこか感情に敏感だったりするのかな。
彼のやさしさに触れた瞬間、反論する気力がすっと消えた。

「……重たいよ?」
「こういうときは、男でよかったと思うよね」
男女平等がささやかれる社会だけれど、性というもので、どうしたって違うものがある。

例えば声、例えば身長、例えば力。

背中に腕を回すと、憩くんの背中は思ったよりも安定していて、あたたかかった。
憩くんに、異性を感じたのは、憩くんの名前を知った日以来のことだった。