たった100秒間の運命

会場に着くと、見慣れた四人が既に集まっていた。
色とりどりのお呼ばれドレスは、今日がハレの日だということを通行人にも声高らかに伝える。

「清花〜!待ってた!」
「ごめんごめん、みんな早いね」

時刻は集合時間の15分前。
余裕を持って集まるみんなに大学時代を思い出して笑みが浮かんだ。

大学のサークル仲間6人のうち、今日は5人目の結婚式。
今日この日を持って、独身は私だけになる。

式が始まると、純白のドレスに身を包んだ明音が幸せいっぱいの笑顔でゲストに手を振った。
その姿は本当に綺麗で、大切な友達の幸せを心から嬉しく思う。

けれど、披露宴が始まり、乾杯のあと料理が運ばれ始めると、テーブルの会話は一気に既婚者たちの世界へと傾いていった。

「うちの旦那さ、最近料理に興味持ち始めてさ〜。味はまあまあなんだけど、キッチンがめちゃくちゃになるのがね……」
「え、いいじゃん!料理してくれるだけで羨ましいよ」

ひと息つく前に、話は次へ転がっていく。

「舞のところはもう子供大きくなったでしょ。うち、最近ほんと夜泣きがすごくて。夜中の3時にわんわん泣かれるとマジで意識飛びそうになる」
「わー、懐かしい。でもその頃が一番可愛いみたいなとこあるよ」

5人で囲む円卓で、私は、口角をあげて話を聞いていた。
手持ち無沙汰を誤魔化すように運ばれてくる料理を口にする。

憩くんと食べたお店はサラダからすっごく美味しかったのに、今日は全く味がしない。
ちらっと視線が向けられて、一瞬時間が止まったかのように静まり返った。

胸の奥がぐうっと捻られるように苦しくなる。
これから投げかけられる言葉たちは容易に想像がついて、それだけで苦しくなるのだ。

「清花は最近どうなの?恋愛とか。まだ仕事に生きてる?」
「結婚願望ないって前は言ってたよね?かっこいいよね」

『まだ』『前は』
自分と違うステージにいる友人たちの声は無意識に攻撃力を持つ。

「私は……今が楽しいからさ!」

明るく言った瞬間、自分の胸の奥がひゅっと縮む。
本当のことなのに、嘘をついたあとのような罪悪感が胸を苦しめる。

結婚して子どもがいる人生が『正しい』世界では、私のような生き方は『間違い』なのだ。

「清花はかっこいいよね〜」
「いや絶対無理だわ私、そんな強くいられない」
「でも、それも幸せだよね。羨ましい〜〜」

……全部、上っ面。
本当にそのままでいいの?という気持ちが裏に見え隠れする。
どんな言葉を返しても結局「あぁ、清花は違うよね」と、別の人種のような処理をされてしまうのは、少し寂しいものがあった。

だから、私はただ笑いながら乗り切るしかなかった。
二次会まで、笑顔を貼り続け、夕方、みんなと分かれた瞬間に、その全てが剥がれ落ちた。

足首の後ろがじん、と痛む。
見ると、パンプスで靴擦れができていた。

お祝いの日に履くパンプスは、仕事用の履き潰したものとは違う、綺麗なもの。
靴擦れするのは毎回のことだったけれど、今日はなぜか、前に進む気力が出なかった。